犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)とは?原因・症状・治療から予防まで徹底ガイド
犬の「パテラ(膝蓋骨脱臼)」は、小型犬を中心に多く見られる膝の病気です。歩き方に違和感があったり、片足を浮かせている仕草は見逃せないサインかもしれません。本記事では、パテラの原因、症状、診断方法、治療法、術後のケアから予防策までを、飼い主さま向けにわかりやすく解説します。犬種ごとのリスクや、生活の質を高める工夫、よくある質問への回答も掲載していますので、「もしかして?」と思った方はぜひご一読ください。
パテラとは何か?〜飼い主が知るべき基本情報〜
膝蓋骨脱臼とは?医学的な定義
パテラとは、医学的には「膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)」のことを指します。膝蓋骨とは、いわゆる「ひざのお皿」のような骨のことです。通常、この膝蓋骨は太ももの骨(大腿骨)の溝の中に収まり、膝の曲げ伸ばしに合わせてスムーズに上下に動く構造となっています。
しかし、何らかの理由によってこの膝蓋骨が本来あるべき位置から外れてしまい、膝の内側や外側にずれてしまう状態になることがあります。これが「膝蓋骨脱臼」、すなわちパテラです。脱臼の程度や回数が増えることで、関節に炎症や変形が起こり、次第に歩行障害へとつながっていきます。
初期の段階では症状が目立たないこともあり、飼い主が見過ごしてしまうケースも少なくありません。だからこそ、早期発見・早期対応が重要になります。
愛犬がパテラになるメカニズム
犬がパテラを発症するメカニズムにはいくつかのパターンがありますが、最も多いのは先天的な関節構造の異常です。特に膝蓋骨を収める大腿骨の溝が浅い場合や、膝の周囲を支える靱帯や筋肉のバランスが悪いと、膝蓋骨が不安定になりやすくなります。
このような構造的な問題があると、歩くたびに膝蓋骨がずれてしまったり、脱臼がクセになってしまったりするのです。また、体重が膝に対して過剰にかかっている場合や、滑りやすい床で頻繁に滑ってしまうような生活環境も、パテラの発症リスクを高める原因となります。
そのため、愛犬の体格や歩き方、住環境などにも注意を払いながら、健康的な生活を送らせることが予防につながります。
内方脱臼と外方脱臼の違いと特徴
パテラには大きく分けて「内方脱臼」と「外方脱臼」の2種類があります。これは、膝蓋骨がどちらの方向にずれるかによって分類されます。
内方脱臼(ないほうだっきゅう)
膝蓋骨が膝の内側へずれるタイプで、特に小型犬に多く見られます。チワワやトイプードル、ヨークシャーテリアなどの犬種では遺伝的にこの脱臼が起こりやすい傾向があります。先天性の骨格異常によるものが多く、幼い頃から症状が見られることもあります。外方脱臼(がいほうだっきゅう)
膝蓋骨が膝の外側にずれるタイプです。こちらは大型犬や運動量の多い犬種で多く見られ、外傷や骨格の成長異常が原因となることが一般的です。外方脱臼は内方脱臼に比べて少数派ではありますが、より深刻な関節障害を引き起こすことがあります。
いずれのタイプでも、脱臼の頻度や重症度に応じて適切な治療法を選択する必要があります。
パテラの原因とリスクファクター
遺伝や骨格の先天的要因
多くのパテラは遺伝的な要因、すなわち「先天性」によって発症するとされています。特に小型犬においては、大腿骨の溝が浅かったり、膝蓋骨の位置がずれていたりする先天的な構造異常を抱えていることが多く、そのために膝蓋骨が安定せず、脱臼しやすい状態になっています。
このような骨格の異常は、親犬から子犬に受け継がれることがあるため、パテラの既往歴を持つ犬から生まれた子犬には注意が必要です。ブリーダーやペットショップから犬を迎える際には、親犬の健康状態を確認することが望ましいでしょう。
事故や転倒などの後天的要因
先天的な要因だけでなく、成長後の事故や衝撃などによってパテラを発症する「後天性」のケースもあります。例えば、ソファからの飛び降り、フローリングでの滑り、ジャンプの失敗などが代表的な例です。
こうした動作によって膝関節に強い衝撃が加わると、膝蓋骨が本来の位置から外れてしまい、脱臼を引き起こす可能性があります。特に子犬や高齢犬では、筋肉や靱帯が弱くなっているため注意が必要です。
また、体重が重すぎる犬では、膝関節にかかる負荷が大きくなり、結果として脱臼のリスクが高まることもあります。
生活環境や体重管理の影響
パテラの発症や悪化には、生活環境や日常の管理の影響も大きく関わっています。まず第一に挙げられるのは、床材の問題です。フローリングやタイルなどの滑りやすい床では、犬が滑って転倒しやすく、そのたびに膝に負担がかかります。
そのため、滑り止めのマットを敷く、カーペットを活用するなど、足元を安定させる工夫が非常に重要です。また、爪が伸びすぎていたり、肉球の間の毛が長くなっていたりすることも滑りやすくなる原因になりますので、定期的なお手入れも忘れずに行いましょう。
加えて、体重管理も非常に重要です。太りすぎは膝関節に負担をかけ、パテラだけでなく、他の関節疾患の引き金にもなります。適切な食事と運動によって、理想体重を保つことが愛犬の関節の健康を守るカギとなります。
見逃しやすいパテラの症状とは?
パテラは、初期段階では犬自身が痛みをあまり訴えず、飼い主が見逃してしまうことも多い病気です。早期発見のためには、どのような症状が見られるかを日頃から把握しておくことが大切です。ここでは、特に注意したい兆候を紹介します。
スキップのような歩き方に注意
もっともよく見られる初期症状が、「スキップのような歩き方」です。通常は4本足でスムーズに歩く犬が、突然片足を上げて数歩跳ねるように歩く姿を見せる場合、それは膝蓋骨が一時的に外れているサインかもしれません。
このような症状は一時的で、すぐに元通り歩き出すこともありますが、何度も繰り返すようであれば、獣医師の診察を受けることをおすすめします。軽度のパテラはこのように断続的な症状で始まるため、見過ごさない観察力が求められます。
足を引きずる、上げるなどのサイン
症状が進行してくると、犬は後ろ足を地面につけずに引きずるようになります。歩くときだけでなく、座るときにもひざを外側に向けて不自然な姿勢をとることがあり、これもパテラ特有のサインです。
また、じっとしているときに足を伸ばしたり、膝をなめ続けたりする仕草も見逃せません。これらの行動は、違和感や軽い痛みを感じている場合によく見られます。
「痛がらない」症状の落とし穴
パテラの怖いところは、「痛みがあまりない」または「表に出さない」ケースがあることです。犬は本能的に痛みを隠す傾向があり、飼い主が気づかないまま重症化してしまうこともあります。
特に軽度〜中等度のパテラでは、犬が普通に走ったりジャンプしたりすることもあり、まったく問題ないように見えることさえあります。しかし、内部では関節に少しずつダメージが蓄積されていることがあるため、少しでも歩き方や行動に変化があった場合には注意が必要です。
パテラのグレード分類とその意味
パテラはその重症度によってグレード(等級)に分類されており、治療方針や生活上の注意点もこのグレードによって変わってきます。以下では、グレードⅠ〜Ⅳまでの特徴と、それぞれに適した対応方法を解説します。
グレードⅠ〜Ⅳの違いと症状
グレードⅠ(最も軽度)
膝蓋骨は通常の位置にあり、外部から手で押すと外れるが、すぐに元に戻る状態です。症状はほとんど見られず、歩行にも支障はありません。定期的な観察と軽い運動での筋力強化が有効です。グレードⅡ(軽度〜中等度)
膝蓋骨が自然に外れたり戻ったりを繰り返します。歩き方にスキップのような動きが見られることが多く、関節の違和感や軽度の炎症が起こることもあります。適切な体重管理やリハビリで進行を抑えることが大切です。グレードⅢ(中等度〜重度)
膝蓋骨は常に外れており、手で元に戻すことは可能だが、すぐに再び脱臼してしまいます。歩行に明らかな異常が見られ、痛みを伴うことも増えてきます。この段階では、手術を検討するケースが多くなります。グレードⅣ(最も重度)
膝蓋骨が完全に脱臼しており、手で戻そうとしても元に戻すことができません。歩行が困難になり、足を使わないまま筋肉が萎縮していく恐れもあります。基本的には外科的手術が必要となります。
治療方針が変わる?重症度ごとの選択肢
パテラの治療はグレードによって大きく異なります。軽度であれば、筋力トレーニングや体重管理といった保存療法で改善を目指すことができますが、中等度以上になると外科手術が視野に入ります。
特にグレードⅢ以上では、脱臼の頻度が高く、関節の変形や軟骨の損傷が進行するリスクが高いため、早期の手術による治療が推奨されることが多いです。治療選択は、年齢や生活環境、犬種なども考慮して獣医師としっかり相談することが大切です。
進行する場合の注意点
パテラは放置すると確実に進行する疾患です。軽度だったものが数ヶ月〜数年で中等度・重度へと移行し、愛犬の生活の質を大きく損ねてしまう可能性があります。
進行を防ぐためには、早期発見とともに、日常生活での「予防管理」が欠かせません。滑り止め対策や体重管理、運動量の見直しなど、小さな工夫の積み重ねが将来の大きな負担を減らすことにつながります。
診断方法と獣医師による対応
パテラは見た目だけでは判断が難しい病気ですが、適切な診断を受けることで早期発見・早期治療が可能になります。ここでは、動物病院での診察の流れや、自宅でできるチェック方法、早期発見に役立つポイントについて解説します。
動物病院での検査の流れ
動物病院では、まず問診で飼い主から犬の症状や普段の様子について詳しく聞き取ります。歩き方や座り方、散歩時の様子など、些細な変化でも重要な情報になります。
続いて行われるのが「触診」です。獣医師が犬の膝に触れて、膝蓋骨の位置や動き方を確認します。膝蓋骨が外れるかどうか、戻りやすさ、痛みの有無などをチェックすることで、おおよそのグレードを判断できます。
必要に応じて、レントゲン検査やCT検査を実施することもあります。これにより、骨格の異常や関節の変形具合、筋肉の状態などをより詳しく把握できます。特に手術を検討する場合には、精密検査が欠かせません。
自宅でできる簡易チェック
日常生活の中で、飼い主が愛犬の異変に気づけるようになることが、パテラの早期発見につながります。以下のような様子が見られたら、注意が必要です。
片足を浮かせたまま歩く、またはスキップのような歩き方をする
段差や階段を避けるようになる
座るときに足を外側に投げ出すような姿勢をとる
膝のあたりを頻繁になめる
歩くのを嫌がる、散歩に行きたがらない
これらの行動が一時的であっても、繰り返すようであれば、動物病院で診察を受けることをおすすめします。
早期発見に役立つポイント
パテラは放置するほど悪化しやすく、グレードが進行すると手術が必要になる可能性が高まります。そのため、普段から犬の歩き方や仕草をしっかり観察し、「いつもと違うかも?」と感じたらすぐに対応することが大切です。
また、定期的な健康診断を受けることで、無症状の段階でパテラを発見できることもあります。特に小型犬を飼っているご家庭では、1年に1回以上のチェックアップを習慣にすると安心です。
パテラの治療法まとめ
パテラの治療は、症状の重さや犬の年齢、体重、生活スタイルなどによって異なります。ここでは、保存療法(内科的治療)と手術(外科的治療)について、基本的な考え方と主な方法を紹介します。
内科的治療(保存療法)とは?
パテラが軽度(グレードⅠやⅡ)の場合、すぐに手術をする必要はありません。日常生活の中で膝への負担を軽減し、症状の進行を防ぐことを目的とした「保存療法(内科的治療)」が行われます。
代表的な方法は以下の通りです:
運動療法(筋肉の強化)
太ももの筋肉を鍛えることで、膝蓋骨の安定性が増し、脱臼しにくくなります。散歩や軽い運動を習慣にすることが効果的です。体重管理
肥満は膝への負担を増やすため、体重を適正に保つことが症状悪化の予防になります。食事内容の見直しも重要です。生活環境の見直し
滑りにくい床材の使用や、段差の少ない部屋作り、階段へのゲート設置など、物理的な負荷を減らす工夫が求められます。鎮痛剤・サプリメントの使用
関節炎が進行している場合には、炎症を抑えるための薬や、軟骨を保護する成分を含むサプリメントが処方されることもあります。
これらの方法によって、膝蓋骨の脱臼回数を減らしたり、痛みをコントロールしたりすることが可能です。
手術が必要なケースと術式の違い
パテラが中等度〜重度(グレードⅢ・Ⅳ)に進行している場合や、保存療法でも改善が見られない場合は、外科的な手術が推奨されることがあります。手術の目的は、膝蓋骨を正常な位置に安定させることです。
代表的な術式には以下のものがあります:
滑車溝造溝術(かっしゃこうぞうこうじゅつ)
膝蓋骨が収まる溝を深くして、外れにくくする方法です。多くの症例でこの術式が使われます。脛骨粗面転移術(けいこつそめんてんいじゅつ)
膝蓋靱帯が付着している「脛骨粗面」を正しい位置に移動させ、膝の軌道を正常化させます。軟部組織の再建術
靭帯や筋肉のバランスを整えることで、膝蓋骨の安定性を高める方法です。軽度〜中等度の症例に適応されることがあります。骨切り術
大腿骨や脛骨の形状そのものを修正する手術で、特に重症例に用いられます。
獣医師が犬の状態を見ながら、複数の術式を組み合わせて行うことが一般的です。
手術費用・回復期間・リスクの概要
手術の費用は、病院や地域、術式の内容によって異なりますが、おおよそ20万円〜40万円程度が一般的な相場です。両脚を同時に手術する場合は、その2倍ほどかかるケースもあります。
術後は、2〜3日程度の入院が必要になり、その後は約4〜8週間にわたる安静期間を設けることになります。リハビリや通院が必要になる場合もありますので、術後の生活計画についてはあらかじめ獣医師としっかり相談しておきましょう。
また、手術には一定のリスクも伴います。麻酔の影響や、感染症、癒着、術後の再脱臼などが挙げられます。ただし、適切な術式とアフターケアによって、多くの犬が健康な生活を取り戻しています。
術後ケアとリハビリの重要性
パテラの手術を無事に終えたからといって、それで治療がすべて完了するわけではありません。術後の回復を順調に進め、再発を防ぐためには、「術後ケア」と「リハビリ」が非常に重要な役割を果たします。
包帯・サポーターの使い方
術後すぐの数日間は、患部に包帯やサポーターを装着することがあります。これは膝関節を安定させると同時に、腫れや炎症を抑える目的があります。サポーターには患部を保護するだけでなく、犬が無理に足を使ってしまうのを防ぐ効果もあります。
ただし、長期間の使用は逆に筋力の低下を招くこともあるため、装着期間や使用方法については獣医師の指示に従いましょう。誤った使い方をするとかえって悪化することもありますので、注意が必要です。
散歩・運動制限の目安
術後1〜2週間は、基本的に安静が推奨されます。無理な運動やジャンプを避け、なるべくケージ内で過ごすようにしましょう。術後4週間程度までは、トイレ程度の短時間の散歩にとどめ、坂道や階段の使用も控えるべきです。
5週目以降からは、徐々に散歩の時間を増やしていきますが、急激な運動再開は厳禁です。リードをしっかりと握り、無理のない範囲での歩行から始め、経過を見ながら段階的に負荷を調整していくことが大切です。
また、室内でも滑り止めマットの設置や、段差へのガードの設置など、環境面のサポートも忘れずに行いましょう。
筋力回復のためのリハビリ方法
術後のリハビリには、筋力低下の防止や関節の柔軟性の回復といった重要な目的があります。適切なリハビリを行うことで、再脱臼のリスクを下げ、歩行機能を元に戻すことが期待できます。
代表的なリハビリ方法には以下のようなものがあります:
水中トレッドミル:水の浮力を利用して関節への負担を減らしながら筋力を鍛える方法で、近年注目されています。
パッシブストレッチ:飼い主がやさしく足を曲げ伸ばしすることで、可動域を広げていきます。
バランスディスク:不安定な足場の上で軽く立たせることで、体幹と脚の筋力を同時に鍛える訓練です。
これらは動物リハビリの専門施設でも実施されており、自宅での補助的なトレーニングと併用することで効果が高まります。
犬のパテラは治るのか?再発リスクと向き合う
「パテラは完治するの?」「手術したのにまた脱臼することはある?」といった疑問を持つ飼い主さまは多いことでしょう。ここでは、治療後の経過や再発の可能性、そして飼い主ができる予防策についてお話しします。
手術後の生活と注意点
手術後、多くの犬は時間とともに膝の安定性を取り戻し、通常の生活に戻ることができます。特に若くて筋肉量の多い犬ほど回復が早い傾向があります。ただし、回復の速度や完全に元のように歩けるかどうかは個体差があります。
手術を受けたとしても、油断は禁物です。関節に負担をかける生活習慣や環境が改善されていなければ、再び脱臼するリスクは十分にあります。定期的な診察を続けるとともに、家庭でのケアも継続することが重要です。
完治と再発の可能性
軽度のパテラ(グレードⅠ・Ⅱ)であれば、適切な保存療法や生活改善によって症状がほぼ消失し、日常生活に問題なく戻れるケースもあります。しかし、グレードⅢ・Ⅳの重度な場合は、手術によって一時的に改善しても、加齢や筋力低下に伴って再発する可能性もあります。
また、術後の過ごし方が不適切だと、再び膝蓋骨が外れやすくなり、再手術が必要になることも。特に小型犬や筋力の弱い犬種では、再発率がやや高い傾向にあります。
そのため、「完治したから安心」というわけではなく、継続的なケアと予防の意識が必要です。
飼い主ができる再発予防
パテラの再発を防ぐには、飼い主の努力が欠かせません。以下のようなポイントを日常生活で意識しておくと、予防につながります。
体重のコントロール:膝に余分な負担をかけないよう、適正体重を維持しましょう。
筋肉の維持・強化:日常的な散歩や適度な運動で、太もも周りの筋肉を鍛えることが重要です。
床材の見直し:フローリングなど滑りやすい床には、滑り止めマットを敷くと効果的です。
高い場所の出入り制限:ソファやベッドからの飛び降りを防ぐため、スロープや段差ガードを設置するのもおすすめです。
定期健診の継続:無症状でも、年1回は動物病院で膝の状態をチェックしてもらいましょう。
日々の小さな習慣が、大切な愛犬の将来を守ることに繋がります。
パテラの予防法:愛犬の未来を守る習慣
パテラは先天的な要因が多い病気ではありますが、生活習慣の見直しや日々の環境づくりによって、その発症リスクを下げたり、進行を食い止めたりすることが可能です。ここでは、飼い主さまが日常的に取り入れられるパテラ予防のための具体的な方法をご紹介します。
肥満防止と食事管理の基本
パテラ予防において、最も重要な要素のひとつが「体重管理」です。体重が増えると、膝関節にかかる負荷が大きくなり、膝蓋骨が外れやすくなるだけでなく、関節の炎症や軟骨のすり減りも進みやすくなります。
特に小型犬は、わずか数百グラムの増加でも膝への負担が大きく変化するため、日々の体重チェックが重要です。以下のようなポイントを意識しましょう。
フードは体格・年齢に合った適切な量を与える
おやつの量を管理し、与えすぎを防ぐ
高カロリーの食事は控える
必要であれば「関節ケア用フード」や「ダイエットフード」への切り替えを検討する
また、定期的な体重測定を行い、急激な増減がないかを確認しておくことも大切です。動物病院で定期的に栄養指導を受けるのもおすすめです。
フローリング対策と室内の工夫
ご家庭の床がフローリングやタイルなどの滑りやすい素材である場合、犬にとっては関節への大きなストレスとなります。パテラの原因や悪化につながる転倒や滑りを防ぐために、以下のような対策を行いましょう。
滑り止め効果のあるペット用マットやカーペットを敷く
犬がよく通る場所だけでもマットを敷いて負担を軽減する
ソファやベッドへのジャンプを防ぐためのスロープを設置する
高い場所に飛び乗らないように、室内のレイアウトを見直す
また、犬の爪が伸びすぎていると、床にしっかりとグリップできず滑りやすくなるため、こまめな爪切りも忘れずに行いましょう。肉球の間の毛も伸びすぎると滑りやすくなるため、定期的にカットしておくと安心です。
サプリメントや滑り止めマットの活用
食事からだけでは補いきれない関節のケア成分を、サプリメントで補給することもパテラ予防には有効です。以下のような成分を含むサプリメントは、関節の健康をサポートしてくれます。
グルコサミン:軟骨の修復を助ける
コンドロイチン:関節の潤滑を保つ
MSM(メチルスルフォニルメタン):炎症の抑制
ヒアルロン酸:関節液の質を改善し、可動域をサポート
これらの成分が配合されたサプリメントは、市販でも獣医師経由でも入手可能です。ただし、年齢や体質によって合わないこともあるため、獣医師に相談のうえで使用を検討しましょう。
また、滑り止めマットは床の安全対策として特に有効です。最近では、デザイン性の高い製品や防水・防臭加工が施されたマットも多く登場しており、インテリアに馴染ませながらパテラ予防が可能です。
パテラになりやすい犬種とその特徴
パテラはすべての犬に発症する可能性がありますが、特に注意が必要なのが「遺伝的にパテラを発症しやすい犬種」です。ここでは、パテラの発症率が高いとされる犬種とその特徴、そして飼い主が知っておくべき予防意識について詳しく解説します。
チワワ、トイプードルなど小型犬の傾向
最もパテラの発症率が高いとされているのは、小型犬です。なかでも特に以下の犬種では、膝関節が不安定であったり、骨格的に膝蓋骨がずれやすい傾向が強いとされています。
パテラになりやすい小型犬の代表例:
トイプードル
チワワ
ヨークシャーテリア
ポメラニアン
パピヨン
マルチーズ
ペキニーズ
ジャックラッセルテリア
ボストンテリア
これらの犬種は、体が小さく細身である反面、関節や筋肉がしっかりと発達していないことが多く、膝蓋骨を支える機構が弱いといわれています。また、活発な性格の犬が多く、ジャンプや急な方向転換が多いことも、膝への負担を増やす要因になります。
ミックス犬のリスクと予防意識
近年は、複数の犬種を掛け合わせた「ミックス犬(ハーフ犬)」の人気も高まっています。トイプードル×チワワ、マルチーズ×ダックスフンドなど、見た目の可愛らしさや性格のバランスの良さが人気の理由ですが、親犬のどちらかがパテラを発症しやすい犬種である場合、ミックス犬にもそのリスクが受け継がれることがあります。
ミックス犬を迎える場合には、以下の点を意識しましょう:
親犬の健康状態や遺伝的な病歴を確認する
小型犬種をベースにしたミックス犬は特に注意する
成長期に骨格がどのように発達しているかを定期的にチェックする
獣医師と相談しながら予防的なケアを早めにスタートする
ミックス犬の場合は、見た目では判断しにくい骨格構造の問題を抱えていることもあるため、日常の観察と定期的な検診がとても重要です。
飼う前に知っておくべき遺伝情報
パテラは先天性の要素が強いため、犬を迎える前に「その犬種がパテラを発症しやすいかどうか」を確認することが、将来のトラブルを未然に防ぐための第一歩です。
ブリーダーやペットショップでは、以下のような点を確認しましょう:
両親犬にパテラの既往歴がないか
骨格や関節に関する健康診断を受けているか
動物病院での健康診断書を提示できるか
万が一、遺伝的な疾患が見つかった場合の対応(返金・治療費補助など)
責任あるブリーダーや販売業者であれば、これらの情報を丁寧に説明してくれるはずです。説明が不十分だったり、健康状態を曖昧にするような対応が見られる場合は、慎重に判断した方がよいでしょう。
小型犬を飼うなら、最初から“膝を守る”暮らしを
小型犬を飼うということは、それだけでパテラのリスクと向き合うことを意味します。しかし、あらかじめそのリスクを知っていれば、予防策を講じることができ、発症を防いだり、症状を軽減させたりすることができます。
たとえば以下のような配慮が効果的です:
幼犬期から適切な運動で筋力を育てる
家の中を滑りにくい床に整える
飛び降りを避けるよう、ソファやベッドにスロープをつける
関節の健康を意識したフードやサプリメントを取り入れる
毎日の歩き方や行動をよく観察する
可愛い見た目や性格だけでなく、「健康を守るためにできることは何か?」という視点で、愛犬との生活をデザインすることがとても大切です。
愛犬の生活の質を上げるために
パテラを抱える犬やそのリスクを持つ犬にとって、毎日の生活環境は健康状態に大きな影響を与えます。膝に優しい暮らしを整えることは、パテラの進行を防ぐだけでなく、愛犬のQOL(生活の質)を大きく向上させることにもつながります。
ここでは、飼い主としてできる具体的な工夫をご紹介します。
痛み軽減グッズや補助アイテム
パテラを抱える犬のために開発されたグッズや補助器具は年々増えており、上手に活用することで関節への負担を和らげることができます。
代表的なアイテム:
犬用サポーター
膝を安定させ、脱臼の予防や痛みの緩和に効果的です。術後のサポートとしても使われます。滑り止め付き靴下
室内での滑りを防ぎ、関節にかかる余計な力を軽減します。特に高齢犬におすすめです。段差用スロープやステップ
ソファやベッドの上り下りを安全にサポートします。飛び降りを防ぐだけでなく、日々の移動が快適になります。低反発マット・クッションベッド
寝ている間に膝関節に負担がかからないよう、柔らかく体を支える寝具を選ぶと良いでしょう。
これらのアイテムは、ネットショップやペット用品店で手軽に購入できますが、サイズや装着感は犬によって異なりますので、試着や口コミの確認なども忘れずに行いましょう。
日々の観察で異変を早期キャッチ
パテラの進行や再発を防ぐ上で、最も効果的なのは「飼い主が変化に早く気づくこと」です。毎日の生活の中で、愛犬の動きや仕草に少しでも異変が見られたら、それは何らかのサインかもしれません。
以下のような点をチェックポイントとして覚えておくと良いでしょう。
観察すべきポイント:
歩き方にスキップのような動きがないか
片足を上げている時間が増えていないか
散歩中に立ち止まったり歩きたがらない様子があるか
座り方が左右非対称になっていないか
階段や段差を嫌がるようになっていないか
これらの兆候は、パテラだけでなく他の関節疾患の可能性もあります。普段と違う動きや態度が見られた場合は、自己判断せず早めに動物病院へ相談するのが安心です。
通院・診察を継続する大切さ
パテラは慢性的な疾患になりやすく、一度治療しても完治までには時間がかかるケースも多く見られます。だからこそ、治療後も定期的に通院を続けることが大切です。
通院の主な目的:
再発や悪化の有無をチェック
膝関節の可動域・筋力の確認
サプリメントや運動量の見直し
飼い主のケア方法の再評価
また、犬の年齢が上がるにつれて、パテラだけでなく他の関節トラブル(股関節形成不全や関節炎など)が併発することもあります。早期に異常を発見するためにも、年1~2回の健康診断をルーチン化することが望ましいです。
さらに、日頃から診察を受けておくことで、万が一手術が必要になった場合でも、信頼できる病院や獣医師と連携を取りやすくなります。
飼い主の関わりが“未来の歩行”を変える
愛犬の健康を守るうえで、もっとも重要なのは「日々の観察」と「予防意識を持つこと」です。犬自身は痛みや違和感を上手く伝えることができません。だからこそ、飼い主が代わりに気づいてあげる必要があります。
たとえ今、症状が出ていなかったとしても、予防的な取り組みを行っておくことは将来的に大きな差となって現れます。正しい知識を持ち、必要なサポートを適切なタイミングで行うことが、愛犬の“歩ける未来”を守るカギになるのです。
よくある質問(FAQ)
ここでは、犬のパテラについて飼い主さまからよく寄せられる疑問・質問に対して、わかりやすくお答えしていきます。実際の診察や日常生活で役立つ情報をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
Q1. パテラは自然に治ることがありますか?
A. 軽度のパテラ(グレードⅠ)であれば、一時的に改善することはありますが、完全に自然治癒することはほとんどありません。
膝蓋骨が自力で元の位置に戻ることはあっても、再脱臼しやすい状態である限り、根本的な解決にはなっていません。特にグレードが進行する前に、運動制限・体重管理・環境改善などを行い、進行を防ぐことが重要です。
Q2. 手術しないで一生過ごすことはできますか?
A. グレードⅠやⅡの軽度であれば、手術を行わずに生活できるケースも多くあります。
しかし、グレードⅢ以上になると、痛みや歩行困難、関節炎のリスクが高まり、日常生活に支障が出る可能性があるため、手術を検討する必要があります。手術を行わなくても快適に過ごすためには、以下のようなケアが欠かせません。
膝に負担をかけない運動管理
筋肉の強化トレーニング
サポーターや滑り止めなどの使用
定期的な動物病院でのチェック
無理に手術を避けるよりも、愛犬にとって快適な選択肢を獣医師と一緒に考えることが大切です。
Q3. 散歩はどの程度しても大丈夫ですか?
A. 軽度のパテラであれば、適度な散歩はむしろ推奨されます。ただし無理は禁物です。
散歩は太ももの筋肉を鍛えることで膝関節の安定性を高める効果が期待できますが、激しい運動や長時間の散歩、ジャンプやダッシュは関節に負担をかけるため避けるべきです。
術後やグレードが高い場合は、獣医師と相談の上、リハビリも兼ねて散歩の回数・時間を調整しましょう。水中トレッドミルなど、関節に優しい運動法も検討されると良いでしょう。
Q4. サプリメントはどんなものが効果的ですか?
A. 関節の健康をサポートするサプリメントには以下の成分が含まれているものが効果的とされています。
グルコサミン:関節の軟骨を修復・再生するサポート
コンドロイチン:軟骨の弾力性を保つ
MSM(メチルスルフォニルメタン):抗炎症作用
ヒアルロン酸:関節液の粘性を保ち、動きを滑らかにする
これらは単体でも良いですが、複数成分がバランスよく配合されたサプリメントを選ぶと効果的です。犬の年齢や体質によっては合わないこともあるため、導入前には獣医師に相談しましょう。
Q5. 将来的に歩けなくなることもありますか?
A. 適切なケアを行わないまま放置すると、進行して歩行困難になるケースもあります。
パテラが重症化し、膝蓋骨が常に脱臼している状態(グレードⅣ)になると、筋肉の萎縮や慢性痛、変形性関節症などの合併症を引き起こし、歩くことが困難になるリスクが高くなります。
しかし、早期発見と日常的な管理によってそのリスクを大きく減らすことができます。歩行の異常に気づいた段階で対応すれば、多くの犬が快適に生活を続けられます。
Q6. 一度パテラの手術をしたら、もう再発しませんか?
A. 手術によって大幅に改善されることは多いですが、再発の可能性はゼロではありません。
術後の生活環境や筋力の維持が十分でないと、数ヶ月〜数年後に再発するケースも見られます。特に、術後に運動制限を怠ったり、体重が増えたりすると再発リスクが高まります。
再発を防ぐためには、術後も定期的な検診とリハビリ、生活環境の見直しが欠かせません。
Q7. 他の関節病とどう違うのですか?
A. パテラは膝蓋骨が脱臼する病気であり、股関節形成不全や前十字靭帯断裂などとは原因も症状も異なります。
ただし、見た目の症状(足を浮かせる・スキップ歩きなど)が似ていることも多く、素人目には判別が難しいです。だからこそ、動物病院での診断がとても大切です。
まとめ
ここまで、犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)について、原因から症状、治療、予防、そして生活の工夫に至るまで網羅的にご紹介してきました。
パテラは完治が難しい一方で、飼い主の理解とサポートによって症状の進行を抑えたり、愛犬のQOLを高めたりすることが可能な疾患です。
おかしいな?と思ったらすぐに診察
日々の観察とケアで再発防止
無理のない運動と体重管理
健康を守る環境整備とサプリメント活用
これらを意識するだけでも、愛犬の膝はしっかり守ることができます。
ドッグスペシャリストナビ運営事務局は、愛犬家の皆さまに信頼できる専門家やサービスの情報を提供しています。