犬の白内障とは?症状・原因・治療・費用まで専門家が徹底解説
愛犬の目が白く濁ってきた…それは「白内障」のサインかもしれません。白内障はシニア犬に限らず、若い犬にも起こりうる進行性の目の病気です。この記事では、犬の白内障の原因・症状・進行段階・治療法・費用・予防策までを獣医師監修の内容に基づき、わかりやすく徹底解説しています。手術をすべきかどうか迷っている方や、日常のケアを知りたい方にとって、必読の情報を網羅しています。目の健康を守り、愛犬のQOLを保つために、ぜひ参考にしてください。
犬の白内障とは:基本情報と人との違い
「最近、愛犬の目が白くなってきた気がする…」「物にぶつかるようになった」そんな変化を感じたことはありませんか?
それはもしかすると「白内障」のサインかもしれません。
白内障は人間と同様に、犬にとっても視力に深く関わる目の病気です。しかも犬の白内障は進行が早く、放置すると失明や合併症を引き起こす可能性もあります。
この記事では、犬の白内障について、基本的な知識から原因、症状、治療法、手術費用、そして予防策までを、獣医師監修の知見をもとに詳しく解説します。
飼い主として正しい知識を持ち、愛犬の目の健康を守りましょう。
白内障とは何か
白内障とは、目の中にある「水晶体」と呼ばれる透明なレンズ部分が白く濁ることで、視力が低下する病気です。
水晶体は、光を屈折させて網膜に像を結ぶ重要な役割を果たしていますが、その中のタンパク質が変性し、白く濁ることで光が通りにくくなり、視界がぼやけてしまいます。
この濁りは一度進行すると自然に元には戻らず、治療には専門的な対応が必要です。
犬の白内障は人間とどう違う?
犬の白内障は、進行速度や発症年齢などが人間と大きく異なります。
人間では主に50代以降に加齢性として発症し、緩やかに進行することが多いですが、犬の場合、**6歳未満の若齢でも発症する「若年性白内障」**が多く、しかも数週間で一気に重症化することもあります。
また、犬の白内障は遺伝性や糖尿病による続発性が非常に多く、進行によっては「ぶどう膜炎」や「緑内障」などの合併症を引き起こすリスクも高いのが特徴です。
白内障の進行ステージと症状の変化
犬の白内障は、進行段階に応じて4つのステージに分類されます。それぞれの段階で見られる症状や視力への影響が異なります。
ステージ1:初発白内障(しょはつ)
水晶体の一部、周辺部などにわずかな濁りが見られる状態です。
視力への影響はほとんどなく、飼い主が肉眼で見つけることはまず不可能です。
ステージ2:未熟白内障
濁りが水晶体の中心部まで広がってくると、犬の視界が少しずつぼやけ始めます。
「ボールをうまく追えない」「暗い場所で動きたがらない」などの軽度な行動変化が見られることもあります。
ステージ3:成熟白内障
水晶体の全体に濁りが及び、瞳が真っ白に見える状態です。
視力が大きく低下し、家具にぶつかるなどの異変が目立ってきます。
ステージ4:過熟白内障(かじゅく)
水晶体が崩れたり、液化したりする危険な段階です。
この時期になると、目の炎症(ぶどう膜炎)や網膜剥離、緑内障といった合併症を引き起こす可能性が非常に高くなります。
犬の白内障の主な原因
犬の白内障にはいくつかの明確な原因があります。どれも犬種や年齢、体質によってリスクが変わります。
1. 加齢による白内障(加齢性)
人間と同じく、老化に伴って水晶体のタンパク質が劣化し、濁ってくることがあります。
加齢性の場合、進行は比較的ゆっくりですが、気づいた時にはかなり進行していることも多いです。
2. 遺伝性白内障(若年性)
特定の犬種では遺伝的に白内障が発症しやすいことが知られています。
1~3歳という若齢で発症することもあり、急激に進行することがあるため注意が必要です。
特に注意が必要な犬種例:
トイプードル
柴犬
チワワ
ジャックラッセルテリア
ミニチュアシュナウザー
アメリカン・コッカー・スパニエル
3. 糖尿病による続発性白内障
犬が糖尿病を患うと、ほぼ100%の確率で白内障を併発するとされています。
高血糖状態では、水晶体内にソルビトールという糖質が蓄積され、急速に濁りを進行させます。
糖尿病性白内障の怖い点は、突然発症して急速に進行することです。
早期診断と血糖値の管理が非常に重要になります。
白内障が多い犬種と若年性リスク
白内障は加齢により起こるだけでなく、犬種によっては**若いうちから発症する「若年性白内障」**もあります。これは、遺伝的要因に起因することが多く、対策には早期発見と定期的な検診が欠かせません。
白内障の好発犬種とは?
遺伝的に白内障が起こりやすい犬種は多数あります。中でも以下の犬種では注意が必要です。
トイプードル
→ もっとも手術件数が多い犬種。1歳前後から発症する例もあります。柴犬
→ 若年性・加齢性のどちらでも見られるケースが多い犬種です。チワワ
→ 眼球が小さく、構造的に眼病にかかりやすい傾向があります。ミニチュアシュナウザー
→ 遺伝性疾患が多く、白内障以外にも目のトラブルが頻発します。ジャックラッセルテリア
→ 活発な性格から外傷による白内障リスクも併せ持ちます。
これらの犬種を飼っている方は、早期から目の状態を意識し、1年に1回以上の眼科検診をおすすめします。
若年性白内障の特徴
若年性白内障は、6歳未満の犬に発症する白内障のことで、多くは遺伝によって引き起こされます。
人間のイメージで「白内障=老化」と思い込んでいると、気づいたときにはすでに重度に進行しているケースも少なくありません。
特に若年性白内障の中には、1週間程度で成熟期まで一気に進行することもあるとされ、視力回復のためには迅速な対応が求められます。
白内障を放置するとどうなる?
白内障は放置すると自然に治ることはなく、進行すればするほど視力の回復が困難になるだけでなく、命に関わる合併症を引き起こす危険性もあります。
合併症のリスク
白内障が進行すると、以下のような深刻な病気を併発する可能性があります。
ぶどう膜炎(ぶどうまくえん)
水晶体から漏れ出たたんぱく質によって炎症が起こる状態です。
症状としては、目の充血、痛み、ショボショボする、涙が多いなどがあります。
緑内障
眼内の圧力(眼圧)が上昇し、視神経にダメージを与える病気です。
失明リスクが非常に高く、緊急手術が必要になることもあります。
網膜剥離
網膜が本来の位置からはがれてしまう状態です。
視力の回復はほぼ望めず、進行すれば失明へ直結します。
水晶体脱臼
水晶体が本来の位置から外れてしまい、視力を失うだけでなく、緑内障や網膜剥離の引き金にもなります。
最終的には失明、眼球摘出も…
過熟期まで放置すると、白内障による水晶体の融解や萎縮が進み、目の内部に炎症や感染が広がってしまいます。
このような状態になると、手術による視力回復はほぼ不可能となり、最悪の場合は眼球摘出手術(義眼化)を行うケースもあるのです。
白内障は「目が白いだけの病気」ではありません。命に関わる重大な疾患を引き起こす可能性があるため、早期に対応することがとても重要です。
白内障の検査方法と診断フロー
「もしかして白内障かも…」と気づいたら、まずは動物病院で正確な診断を受けましょう。
犬の白内障は見た目だけでは判断が難しく、専門的な機器と検査が必要です。
主な検査項目
1. 細隙灯検査(さいげきとう)
特殊なスリット状の光を目に当てて、水晶体の濁りや角膜の異常を観察する検査です。
肉眼では見えない微細な変化も確認でき、初期の白内障の発見に有効です。
2. 眼圧測定
白内障に伴って緑内障を併発していないか確認するために、眼内の圧力を測定します。
数秒で終わる簡単な検査ですが、非常に重要です。
3. 超音波検査(エコー)
水晶体や網膜の状態、眼球内の出血や異常を調べるために行います。
網膜剥離や水晶体脱臼などの診断にも使われます。
4. 血液検査
糖尿病などの代謝性疾患が原因で白内障を引き起こしていないかを確認します。
特に急激に発症した場合は、全身疾患の有無をチェックする必要があります。
鑑別が必要な「核硬化症」とは?
高齢犬で水晶体が少し白く見えることがありますが、それが「核硬化症」と呼ばれる生理的な変化である場合もあります。
核硬化症は視力には影響を及ぼさないため、治療の必要はありません。
白内障と間違えやすいため、獣医師によるしっかりとした診断が必要です。
治療法の選択肢:点眼と手術の違い
犬の白内障には、進行度や犬の体調、生活スタイルによって選択すべき治療法が異なります。大きく分けて、内科的治療と外科的治療の2つがあり、それぞれに特徴があります。
内科的治療:点眼薬やサプリメントで進行を抑える
初期段階(ステージ1~2)であれば、進行を遅らせる目的での内科的な治療が有効です。視力を完全に回復させることはできませんが、進行を食い止めることで日常生活を快適に保つことが期待されます。
主な内科的治療法:
ピレノキシン点眼薬
→ タンパク質の変性を抑える働きがあり、白内障の進行を遅くします。抗酸化サプリメント
→ アスタキサンチンやルテイン、ビタミンEなどが配合されたサプリが有効とされます。食事療法や紫外線対策
→ 抗酸化作用の高いフードや、外出時の紫外線防止も効果的です。
これらはあくまで「進行を遅らせる」ための対症療法であり、すでに進行してしまった白内障を治すことはできません。
外科的治療:手術による視力の回復
白内障が進行し、日常生活に支障をきたす段階(ステージ3~4)に入ると、手術による対応が唯一の根本的な治療方法になります。
主な手術方法:
超音波乳化吸引術
→ 水晶体を砕いて吸引し、代わりに人工レンズ(眼内レンズ)を挿入します。
これは人間の白内障手術でも一般的な方法です。
手術の流れ:
事前検査(眼圧、エコー、血液検査など)
全身麻酔の実施
白内障手術(両目または片目)
術後の入院または日帰り(病院により異なります)
数週間にわたる点眼薬と定期検診
術後の注意点と合併症リスク
犬の白内障手術は人間に比べて合併症のリスクが高いとされています。
一般的に、手術後10%程度の症例で何らかの合併症が報告されています。
主な合併症:
ぶどう膜炎(炎症による痛みと視力障害)
緑内障(眼圧上昇)
網膜剥離(水晶体の変性に伴う剥離)
水晶体脱臼(術後の位置ズレ)
これらは早期発見と適切な管理により抑えられることが多いため、術後の通院と点眼管理は非常に重要です。
手術しないという選択肢とリスク管理
高齢犬や持病を抱えている場合、全身麻酔のリスクを考慮して手術を見送るという選択もあります。
しかし、手術をしないからといって放置するのではなく、「その子に合った生活の質(QOL)」を確保することが何より大切です。
手術をしない場合のケアポイント:
家具の配置を変えず、衝突を防ぐ環境作りをする
フローリングには滑り止めマットを敷く
散歩コースは安定したルートに限定する
他の感覚(嗅覚・聴覚)を活かしたコミュニケーションを心がける
また、進行の抑制には前述の点眼薬やサプリメントが引き続き有効です。
「手術をしない=何もしない」ではなく、愛犬の視力以外の能力や環境面でサポートすることが必要となります。
治療にかかる費用とペット保険の活用
手術を検討する際、多くの飼い主さまが気になるのが「費用」です。
犬の白内障手術は高度な技術と設備を要するため、決して安価ではありません。
白内障手術の費用目安
費用項目 | 概要 | 目安費用(税別) |
---|---|---|
事前検査 | 血液検査・眼圧・エコー・視力チェックなど | 15,000~30,000円 |
手術本体(片目) | 超音波乳化吸引+人工レンズ挿入 | 200,000~400,000円 |
術後管理 | 点眼薬・定期検診・再検査 | 月5,000~10,000円 |
※費用は病院や地域により異なります。両目手術の場合は費用が1.5~2倍になることもあります。
ペット保険は使える?
白内障の治療や手術が保険の適用になるかどうかは、加入しているペット保険のプラン内容によって異なります。
よくある条件:
加入前からの持病・先天性疾患は対象外
手術保障が付帯されているかを要確認
通院・入院・手術の補償上限が異なる
加入中の保険内容を確認し、適用範囲や自己負担額を事前に把握しておくことが大切です。
自宅でできる白内障の予防と生活ケア
白内障は一度発症すると自然に治ることはありません。
しかし、日常生活の中で進行を遅らせたり、発症リスクを下げたりするためにできることは多くあります。
食生活とサプリメントの活用
白内障の進行には「酸化ストレス」が深く関わっているとされており、抗酸化作用のある成分の摂取が効果的とされています。
有効とされる成分:
アスタキサンチン:抗酸化力が非常に強い海洋由来成分
ルテイン:網膜の健康を守る天然色素
ビタミンC・E:細胞の酸化ダメージを防ぐ
ブルーベリー抽出物(アントシアニン):目の疲労や炎症予防に有効
これらの成分はサプリメントとして与える方が、栄養バランスを崩さず摂取しやすいためおすすめです。
ただし、用量・用法を守り、獣医師に相談の上で取り入れるようにしましょう。
紫外線対策
長時間の屋外散歩や強い日差しのもとでは、紫外線が水晶体を劣化させる要因となります。
予防ポイント:
朝夕など日差しの弱い時間に散歩をする
犬用のUVカットゴーグルを使用する(嫌がらなければ)
カートやキャリーバッグに日除けをつける
安全な生活環境づくり
白内障が進行しても、生活環境を整えることで犬の不安を軽減することができます。
家具の配置をなるべく変えない
階段や段差に柵や滑り止めをつける
フローリングにはマットやカーペットを敷く
おもちゃやごはんの位置を常に一定に保つ
犬は嗅覚や聴覚を頼りに行動できるため、視力が落ちても安心して暮らせるようなサポートが大切です。
間違えやすい目の病気との違い
犬の目が白っぽく見える病気は白内障だけではありません。誤診を防ぐためにも、似ているが異なる病気との違いを知っておくことは大切です。
核硬化症(かくこうかしょう)
核硬化症は、白内障と非常によく似た見た目になる生理的な変化です。
加齢によって水晶体が徐々に硬くなり、少し白っぽく見えることがありますが、視力にはほとんど影響がないのが特徴です。
核硬化症と白内障は、細隙灯(スリットランプ)などの専門機器を用いた検査で見分けることが可能です。
角膜炎・結膜炎
これらは目の表面に炎症が起こる疾患で、目の赤みや涙、目ヤニを伴うことが多くあります。
白く見えるのは「水晶体」ではなく、角膜や眼球表面の変化であるため、原因や治療法も異なります。
最後に:愛犬の目を守るためにできること
犬の白内障は、進行が早く、放置すれば失明や深刻な合併症につながる可能性のある病気です。しかし、早期発見・早期治療・正しい生活管理によって、愛犬の視力や生活の質を守ることができます。
特に目が白く濁ってきた、物にぶつかるようになったなどの兆候に気づいたら、すぐに動物病院で診てもらいましょう。
また、白内障の手術は高度な医療が求められますが、適切な医師と連携することで視力の回復や快適な老後を目指すことができます。
愛犬の目の健康を守ることは、飼い主としての大切な役割です。
この記事が、白内障に悩む飼い主さまとその大切な家族であるワンちゃんの助けとなれば幸いです。
よくある質問(FAQ)と飼い主の心構え
Q1:白内障は治りますか?
A:進行した白内障を元に戻す薬は存在しません。
初期であれば点眼薬やサプリメントで進行を抑えることはできますが、視力の回復には手術が唯一の方法です。
Q2:白内障は片目だけ手術してもいいの?
A:はい、片目だけでも手術可能です。
実際に片目の進行が早く、もう片方が軽度というケースでは、まずは片目から手術をすることが一般的です。
Q3:白内障は再発しますか?
A:人工レンズを入れた場合、水晶体自体が再び濁ることはありません。
ただし、術後に**水晶体後嚢の混濁(後発白内障)**が起こることがあり、再手術やレーザー治療が必要になることもあります。
Q4:失明したら犬は生活できるの?
A:視力を失っても、犬は嗅覚・聴覚を頼りに生活する能力に長けている動物です。
生活環境を工夫し、飼い主が丁寧にサポートすることで、視力がなくても快適に暮らすことができます。
Q5:白内障は予防できますか?
A:完全な予防は難しいですが、以下のことを意識すれば発症リスクを下げることは可能です。
紫外線を避ける
定期的な眼科検診を受ける
抗酸化成分を含む食事やサプリを取り入れる
外傷や糖尿病を予防・管理する
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