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犬の白内障の原因とは?症状・治療・予防まで専門ライターが解説

犬の白内障の原因とは?症状・治療・予防まで専門ライターが解説

この記事で知れること

犬の白内障は加齢や遺伝、糖尿病などが原因で発症し、進行すると視力を失う可能性もあります。本記事では、白内障の症状や進行段階、原因、治療法、予防策までを網羅的に解説。視力を失った犬との暮らし方や費用、寿命への影響についても詳しく紹介しています。愛犬の目の健康を守るために、ぜひご一読ください。

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犬の白内障とは?

犬の目が白く濁ってきたと感じたことはありませんか?それは「白内障」の兆候かもしれません。白内障は高齢の犬に多く見られる疾患ですが、若い犬でも発症することがあり、進行すると視力の低下や失明に至ることもあります。この記事では、犬の白内障の原因や症状、治療法、予防策までを獣医師監修の情報に基づき詳しく解説します。愛犬の目を守るために、早期の気づきと適切な対処が大切です。

白内障の基本知識と発症メカニズム

白内障とは、眼球内の水晶体が白く濁ってしまう病気です。水晶体はカメラのレンズのような働きをしており、光を通して網膜に像を結ぶ役割を担っています。通常は透明な水晶体が、何らかの原因でタンパク質が変性し、白く濁ることによって視力が低下します。

犬の白内障にはさまざまなタイプがありますが、加齢や遺伝、糖尿病などが主な原因とされています。進行度合いにより「初発」「未熟」「成熟」「過熟」の4段階に分類され、段階が進むごとに視力の低下も顕著になります。

水晶体の役割と視力への影響

水晶体は、犬の視覚にとって非常に重要な器官です。目に入ってきた光を屈折させて網膜にピントを合わせることで、犬が物を見ることを可能にしています。水晶体が透明であればあるほど、視界はクリアに保たれます。

しかし白内障によって水晶体が濁ると、光がうまく通らなくなり、網膜に十分な光が届かずに視力が落ちてしまいます。初期の段階ではほとんど気づかないこともありますが、進行すると壁にぶつかったり物に躓いたりといった行動が見られるようになります。

白内障と核硬化症の違い

白内障と間違えやすい病気に「核硬化症(かくこうかしょう)」があります。こちらも水晶体が白く見える症状を呈するため、混同されやすいですが、まったく異なる疾患です。

核硬化症は、加齢によって水晶体の中心部が白く見えるようになる生理的変化であり、視力には大きな影響を与えません。そのため治療の必要もなく、通常の生活を送ることができます。

一方、白内障は視力の低下を伴う病的な変化であるため、進行を抑える治療や場合によっては手術が必要になることもあります。外見上の見た目だけでは判別が難しいため、気になる症状がある場合は獣医師の診断を受けることが重要です。

さらに「犬 白内障 とは」の詳細を知りたい方はこちらの記事をご覧ください

犬の白内障とは?症状・原因・治療・費用まで専門家が徹底解説

犬の白内障の主な原因

加齢による白内障のリスク

最も一般的な白内障の原因は「加齢」です。特に7歳を超える中高齢の犬に多く見られ、老化に伴う自然な変化とされています。水晶体の中のタンパク質が酸化や糖化によって変性し、透明性を失って白く濁ってしまいます。

このタイプの白内障は進行が緩やかなことが多く、早期に発見すれば生活に大きな支障をきたさずに済むこともあります。ただし、進行が早いケースもあるため、年齢に応じて定期的に目の検査を受けることが望ましいでしょう。

遺伝が関与する犬種とリスク

白内障は遺伝性で発症することもあり、特定の犬種では特に注意が必要です。以下の犬種は白内障の発症率が高いとされています:

  • ミニチュア・シュナウザー
  • プードル
  • ボストン・テリア
  • シベリアン・ハスキー
  • コッカー・スパニエル
  • ゴールデン・レトリバー

これらの犬種では若いうちから白内障を発症することもあり、「若年性白内障」と呼ばれます。遺伝性の白内障は、3〜6歳で発症するケースも多く、加齢によるものとは異なり進行が早い傾向にあります。

遺伝の有無を完全に予防することはできませんが、信頼できるブリーダーから譲り受けることや、家族歴を確認することでリスクをある程度回避できる場合があります。

糖尿病が引き起こす急性白内障

犬の白内障の原因としてもう一つ注意すべきなのが「糖尿病」です。犬の糖尿病は人間と同様に、インスリンの分泌不足や作用不全によって血糖値が異常に高くなる病気です。糖尿病を患っている犬は、白内障のリスクが飛躍的に高まることが知られています。

糖尿病によって高血糖の状態が続くと、水晶体内の糖分も増加します。水晶体はこの糖分を代謝しようとしますが、その過程で「ソルビトール」という物質が生成されます。ソルビトールは水分を引き寄せやすく、これが水晶体内に蓄積することで濁りを引き起こすのです。

このタイプの白内障は「糖尿病性白内障」と呼ばれ、発症から短期間で急激に進行することが特徴です。わずか1〜2日で失明に近い状態になることもあるため、糖尿病を持つ犬は特に目の変化に注意し、定期的な眼科検査を受けることが強く推奨されます。

外傷やぶどう膜炎などの目の疾患

物理的なダメージや眼疾患も白内障の引き金となります。たとえば、目を何かに強くぶつけた際に水晶体が損傷すると、時間が経過するにつれて濁りが発生することがあります。また、目の中に炎症が起こる「ぶどう膜炎」や「網膜剥離」なども水晶体に悪影響を及ぼし、白内障の原因になることがあります。

これらは「続発性白内障」とも呼ばれ、一次的な原因疾患が別に存在するのが特徴です。目の外傷や病気があった際には、見た目に変化がなくても獣医師の診察を受けることで、潜在的なリスクを早期に発見できる可能性があります。

紫外線・栄養欠乏などの環境要因

白内障の原因は遺伝や病気だけではありません。日常の生活環境も、犬の目の健康に大きく関わっています。特に影響を与えるのが紫外線です。強い日差しの下で長時間過ごす犬は、水晶体に紫外線が蓄積されることで酸化ストレスが増し、白内障の進行を早める可能性があるとされています。

また、ビタミンCやE、ルテインなどの抗酸化物質が不足していると、細胞の酸化を防ぐ力が弱まり、水晶体の劣化が進行しやすくなります。これにより、老化以外でも白内障が早く進んでしまうことがあるのです。

環境的なリスクは、飼い主の工夫である程度軽減することができます。たとえば、直射日光が強い時間帯の散歩を避ける、栄養バランスに配慮した食事を心がけるなどが効果的です。

 

白内障になりやすい犬種

高リスク犬種の一覧

前述のように、遺伝性の白内障が報告されている犬種は多数存在します。具体的には、以下のような犬種が高リスクとされています:

  • ミニチュア・シュナウザー
  • アメリカン・コッカー・スパニエル
  • トイ・プードル
  • ボストン・テリア
  • シベリアン・ハスキー
  • ゴールデン・レトリバー
  • ビーグル
  • オーストラリアン・シェパード

これらの犬種を飼っている場合、若年のうちから定期的に眼の検査を受けることが推奨されます。また、同じ犬種で白内障を患ったことのある家系に属する場合、特に注意が必要です。

犬種別に見る発症傾向

例えば、ミニチュア・シュナウザーやプードルは、3歳頃から白内障を発症する「若年性白内障」のリスクが高いとされています。逆に、ラブラドール・レトリバーなどは比較的高齢になってから発症する傾向が強く、進行も緩やかです。

犬種によって白内障の進行速度や重症度にも差が見られるため、犬種別の傾向を理解しておくことが大切です。これにより、飼い主としてどのようなケアを行えばよいかの目安にもなります。

白内障の進行段階と症状

初発期:気づきにくい初期症状

犬の白内障は、進行段階によって症状が異なります。最初の段階である「初発期」では、水晶体のわずかな部分(全体の約10%)に濁りが見られますが、視力への影響はほとんどなく、犬も日常生活に支障を感じていないケースがほとんどです。

そのため、この時期に白内障に気づくのは非常に困難です。飼い主が目をじっくり観察しない限り、症状を見逃してしまうことも少なくありません。しかし、ここで気づけるかどうかが、後の進行を食い止める上で重要なカギとなります。

未熟期:白濁の進行と視力低下

「未熟期」になると、水晶体の濁りが全体の15〜99%にまで広がります。見た目でも目が白っぽく見えるようになり、飼い主が異変に気づきやすくなります。この段階では視力にも軽度から中等度の低下が現れ、行動の変化が見られるようになります。

たとえば、物にぶつかる、階段を躊躇する、目が合いにくくなるなどの行動が見られることがあります。完全な失明ではないものの、暗い場所や段差のある場所では特に動きが鈍くなることがあるため、注意が必要です。

成熟期:視力のほぼ消失

白内障が「成熟期」に進行すると、水晶体全体が白く濁り、犬の視力はほとんど失われた状態になります。視界が完全に遮られるため、明るさの違いすら認識できなくなり、生活に大きな支障をきたします。

この時期の犬は、目が見えない不安から警戒心が強くなったり、夜鳴きをしたりすることがあります。家の中でも物にぶつかったり、歩き方がぎこちなくなるなどの明らかな変化が見られるようになります。飼い主は、犬がぶつからないよう家具の配置を工夫するなどの配慮が必要です。

過熟期:合併症のリスク増加

白内障の最終段階である「過熟期」では、水晶体が崩壊を始めたり、内部にシワが生じたりします。水晶体内のタンパク質が溶け出して目の中に炎症を起こし、ぶどう膜炎や緑内障といった合併症を引き起こす危険性もあります。

この状態まで進行すると、視力を回復することは非常に困難であり、手術による治療にも限界が出てきます。犬自身にも強い不快感や痛みが伴う可能性があるため、ここまで悪化させないことが極めて重要です。

さらに「犬 白内障 初期」の詳細を知りたい方はこちらの記事をご覧ください

犬の白内障と目薬治療の完全ガイド|原因・症状・治療・飼い主の対処法

早期発見と診断方法

家庭でできるチェックポイント

白内障を早期に発見するためには、日常生活の中で愛犬の様子をよく観察することが第一です。以下のような兆候が見られた場合、白内障の可能性があるため注意が必要です:

  • 目が白っぽく見える
  • 暗い場所での行動が鈍くなる
  • よく物にぶつかるようになった
  • 階段を降りるのをためらう
  • おもちゃを見失う

これらの変化は初期段階から徐々に現れることがあるため、飼い主が「いつもと違うな」と感じたらすぐに動物病院を受診することが大切です。

獣医師による眼科検査とは?

動物病院では、まず視覚の反応を確認する簡易テストが行われます。手を動かした際に目で追うかどうか、光に対して瞳孔が収縮するかなどがチェックされます。

次に、専門の検査器具を使って水晶体の濁りの有無や程度を詳しく確認します。中でも「検眼鏡」という器具は、目の内部構造まで観察できるため、白内障だけでなく網膜や視神経の異常も併せて確認することができます。

早期診断ができれば、進行を遅らせる治療や生活環境の改善を早めに開始することができ、愛犬のQOL(生活の質)を維持することにもつながります。

検眼鏡・網膜・視神経の検査詳細

白内障の診断には、「検眼鏡(けんがんきょう)」という特殊な器具が使用されます。これは、犬の目の内部を詳細に観察できる医療機器で、水晶体の濁り具合や混濁の位置、網膜や視神経の状態を把握するのに役立ちます。

白内障が進行すると、光が網膜まで届きにくくなるため、眼底の確認が難しくなります。そうした場合でも、検眼鏡を用いることで、網膜剥離や視神経の異常がないかをチェックし、白内障以外の疾患との区別を行います。

また、眼圧の測定や瞳孔の反応テストなど、複数の診断法を組み合わせることで、白内障の進行度と適切な治療法を総合的に判断します。これらの検査は、獣医師の経験と専門的な知識が必要とされるため、信頼できる動物病院での診察が望ましいです。

さらに「犬 白内障 チェック」の詳細を知りたい方はこちらの記事をご覧ください

犬の白内障チェック完全ガイド|初期症状・原因・対策を徹底解説

犬の白内障の治療法

点眼薬・サプリメントの効果

犬の白内障治療は、主に「内科的治療」と「外科的治療」に分けられます。初期段階であれば、進行を遅らせるための点眼薬やサプリメントの使用が検討されます。

点眼薬としては、抗酸化成分を含むものや、炎症を抑えるタイプのものが使われますが、これらはあくまで進行抑制が目的であり、すでに濁った水晶体を元に戻す効果はありません。

また、ルテイン、アスタキサンチン、ビタミンEなどを含むサプリメントも補助的に使用されることがあります。これらの成分は、眼の細胞の酸化を防ぐ働きがあり、目の健康維持に寄与するとされています。

ただし、どちらも医師の指導のもとで使用することが前提となります。自己判断での過剰投与や、効き目のない製品の使用は避けましょう。

手術の流れと手法(人工レンズ挿入)

白内障が進行し、視力を大きく失ってしまった場合には、外科手術によって水晶体を取り除き、人工レンズ(眼内レンズ)を挿入する治療が選択されます。この手術は「水晶体摘出術」と呼ばれ、犬の視力を回復させる唯一の方法とされています。

手術は全身麻酔のもとで行われ、白く濁った水晶体を超音波で砕きながら吸引し、その後、透明な人工レンズを挿入するという流れになります。人工レンズはプラスチックやアクリルでできており、視力の再構築に大きく貢献します。

片眼だけでなく、両眼に白内障がある場合は、一度の手術で両方を治療することもあります。ただし、高齢の犬や持病を抱える犬の場合、麻酔リスクの高さから片眼ずつ行うなど、対応は個別に検討されます。

術後ケアと注意点

手術が成功したとしても、術後のケアを怠ると合併症を招くリスクがあります。術後は、目の炎症を抑えるための点眼薬を数週間にわたり使用する必要があります。また、犬が目をこすらないようにするため、エリザベスカラーを装着するケースもあります。

さらに、術後は目の状態を定期的にチェックする必要があり、術後1週間、1ヶ月、3ヶ月といった間隔で動物病院で診察を受けることが一般的です。獣医師の指示を守りながら、愛犬の目をしっかりケアしていくことが重要です。

術後の経過が良好であれば、視力は大幅に回復し、以前のように活動的な生活を送ることが可能になります。しかし、個体差もあるため、過度な期待はせず、現実的な回復目標を持つことが大切です。

手術の成功率とリスク評価

犬の白内障手術は、成功率が80〜90%と非常に高いことが報告されています。特に健康状態が良好な若い犬の場合は、視力がほぼ元通りに回復することも珍しくありません。

ただし、全身麻酔を使用することから、心臓疾患や腎臓病などの持病がある犬には慎重な判断が求められます。また、手術そのものによる合併症として、眼内炎や緑内障、網膜剥離などのリスクもゼロではありません。

これらのリスクを最小限に抑えるためにも、事前の精密検査をしっかりと受け、信頼できる動物眼科専門の病院で手術を受けることが推奨されます。飼い主の不安を取り除くためにも、事前に詳しい説明を受けることが重要です。

さらに「犬 白内障 目薬」の詳細を知りたい方はこちらの記事をご覧ください

犬の白内障と目薬治療の完全ガイド|原因・症状・治療・飼い主の対処法

治療費用の実例と目安

手術費用の相場

犬の白内障手術には、ある程度まとまった費用がかかります。動物病院によって差はありますが、一般的に片眼あたりの手術費用は30万円〜50万円程度が相場です。両眼同時に手術を行う場合は、割引が適用されることもありますが、それでも総額で50万〜80万円前後になることがあります。

この費用には、術前検査、麻酔代、手術そのものの費用、入院費、術後のケア用品(エリザベスカラーなど)も含まれることが多いです。ただし、動物病院によって内訳やサービス内容が異なるため、事前に見積もりを取っておくと安心です。

通院・検査・薬の総コスト

手術を受けない場合でも、白内障の進行を遅らせるためには定期的な通院と検査が必要です。検眼や眼圧検査、点眼薬の処方などを継続して行うと、月に5,000〜10,000円程度のコストがかかることも珍しくありません。

また、抗酸化サプリメントを継続的に与える場合、それも年間で数万円の支出になることがあります。特に高齢犬では、白内障以外の疾患の管理と併せて治療が進むこともあり、全体の医療費が高額になる可能性も考慮しておきましょう。

ペット保険の活用方法

白内障の治療費は高額になりやすいため、ペット保険の加入を検討する飼い主も増えています。ただし、保険のプランによっては、白内障の手術が補償対象外であったり、待機期間(契約後一定期間補償対象外)が設定されていることもあります。

ペット保険を選ぶ際は、眼科疾患が補償対象か手術費用に上限がないか慢性疾患にも対応しているかといった点を確認することが重要です。また、保険に加入するタイミングも大切で、病気が発症してからでは加入できない場合があります。

一部の保険会社では、手術費用の70〜90%を補償してくれるプランも存在しますので、愛犬の年齢や健康状態に合わせて適切な保険を選ぶとよいでしょう。

白内障と併発しやすい疾患

緑内障・網膜剥離との関係

白内障は単独でも視力に影響を与える病気ですが、さらに注意すべきなのが合併症のリスクです。中でも緑内障網膜剥離は、白内障との関連が深く、放置すると失明に至る重大な疾患です。

緑内障は、眼球内の圧力(眼圧)が異常に上がることで視神経が障害される病気で、白内障の進行によって水晶体から出た物質が房水の流れを妨げることが原因となります。痛みを伴い、急激な視力低下を引き起こします。

また、網膜剥離は網膜が本来の位置からはがれてしまう状態で、白内障の進行により眼内の構造が不安定になることが引き金となる場合があります。視覚情報を伝える網膜が損傷するため、手術をしても視力の回復が難しくなることがあります。

糖尿病との複合リスク

前述の通り、糖尿病と白内障の関連性は非常に高く、糖尿病を発症している犬の多くが白内障も併発するといわれています。この2つの疾患が同時に存在する場合、視力の喪失だけでなく、体調全体に大きな影響を与えることになります。

糖尿病性白内障は進行が非常に速いため、糖尿病の診断を受けたらすぐに目の検査を行うことが理想です。血糖値のコントロールが難しいと、手術のリスクも高まり、治療の選択肢が限られてしまうこともあります。

白内障の管理と同時に、血糖値を適正に保つための食事療法やインスリン投与を含むトータルな医療管理が求められます。糖尿病と白内障の両面から、総合的なケアを行うことが、犬の健康寿命を延ばす鍵になります。

白内障の予防は可能か?

食生活・運動・紫外線対策

白内障は完全に予防することが難しい疾患ではありますが、発症を遅らせたり、進行を緩やかにしたりするための工夫は可能です。その第一歩は、日々の食生活や生活習慣の見直しです。

バランスのとれた食事は、白内障だけでなく全身の健康を維持するうえでも重要です。ビタミンC、E、ルテイン、アスタキサンチンといった抗酸化作用のある栄養素を意識的に摂取させることで、水晶体の酸化を防ぎやすくなります。ドッグフードを選ぶ際には、これらの栄養素が配合されているかチェックしてみましょう。

また、適度な運動も大切です。肥満は糖尿病のリスクを高め、結果的に白内障の発症リスクにもつながります。毎日の散歩や遊びの時間をしっかり確保することで、体重を適正に保つことができます。

さらに見落としがちなのが、紫外線への対策です。強い日差しに長時間さらされると、犬の目にもダメージが蓄積される可能性があります。日差しの強い時間帯を避ける、犬用のサングラスを活用するなど、外出時には目を守る工夫も取り入れたいところです。

サプリメントの活用法

白内障の予防を目的として、犬用のサプリメントを利用する飼い主も増えています。前述したルテイン、アスタキサンチン、ビタミン類のほか、ブルーベリー由来のアントシアニンなども眼の健康維持に役立つ成分として注目されています。

これらのサプリメントはあくまで「補助的な役割」ではありますが、日常の食事では不足しがちな栄養素を効率よく補えるメリットがあります。特に高齢の犬や、白内障のリスクが高い犬種を飼っている場合には、健康維持の一環として取り入れても良いでしょう。

ただし、サプリメントには質のばらつきもあるため、獣医師と相談のうえ、安全性が高く実績のある製品を選ぶことが重要です。中には他の薬と併用できない成分を含む場合もあるため、自己判断での使用は避けましょう。

定期検診での早期対策

白内障の予防において、最も効果的な方法の一つが定期的な健康診断です。年に1〜2回は動物病院で眼科検査を受けることで、初期段階の白内障やその他の眼疾患を早期に発見することができます。

特に高齢犬やリスクの高い犬種、糖尿病を患っている犬の場合は、年1回ではなく半年に1回程度のペースで検診を受けるのが理想的です。病気は早期発見・早期対応が最も効果的であり、治療の選択肢も広がります。

また、定期検診を通じて獣医師との信頼関係を築くことで、日常のちょっとした不安や疑問も気軽に相談できるようになります。予防はもちろん、病気の進行を遅らせるためにも、動物病院との定期的な連携を心がけましょう。

視力を失った犬との生活支援

行動の特徴と注意すべき点

白内障が進行し、犬が視力を失った場合でも、飼い主のサポート次第で快適な生活を送ることは十分に可能です。まずは、視力を失った犬がどのような行動を示すのかを理解することが大切です。

よく見られる特徴としては、壁や家具にぶつかる、階段を躊躇する、おやつやおもちゃを探すのに時間がかかる、鼻を床に近づけて歩くなどがあります。これは視力の代わりに嗅覚を使って周囲を把握しようとする行動です。

また、視力がないことで不安を感じやすくなり、警戒心が強くなったり、夜鳴きをしたりすることもあります。これらの行動に対しては、叱るのではなく、安心できる環境を整えることが大切です。

飼い主ができる安全対策とケア

視力を失った犬の生活をサポートするためには、家庭内の安全対策が欠かせません。たとえば、家具の角にクッションを取り付けたり、階段や段差のある場所にゲートを設けることで、怪我を防ぐことができます。

また、水やごはんの場所を固定して変えないようにする、障害物を減らすなど、犬が安心して移動できる環境を作る工夫も重要です。音の鳴るおもちゃを使うことで、視覚に頼らずに遊ぶことも可能になります。

さらに、散歩の際にはリードを短めに持ち、段差や障害物の前で「段差」「止まって」などの声掛けを行うことで、犬の不安を軽減できます。飼い主の声や気配が、視力を失った犬にとって最大の安心材料になります。

生活環境の整え方

視力を失った犬がストレスなく過ごせるようにするには、家庭内の生活環境を整えることが不可欠です。犬にとって生活空間の「予測可能性」を保つことが、安心感につながります。

まず重要なのは、家具の配置を頻繁に変えないことです。犬は記憶と嗅覚を頼りに空間を把握しています。家具の配置が変わると、ぶつかるリスクが高まり、犬にとって大きなストレスとなります。

また、足元の感覚を大切にするため、滑りやすいフローリングにはマットを敷くのが効果的です。犬が自信を持って歩けるようになるだけでなく、転倒防止にもつながります。

さらに、家の中にある障害物(コード、段差、椅子の脚など)をできるだけ取り除き、歩行ルートを広く保つように心がけましょう。階段の昇り降りが危険な場合には、スロープの設置や柵での侵入制限も有効です。

こうした環境整備は、飼い主の心がけ次第で大きく改善できる部分です。視力を失った犬でも、環境を整えることで快適かつ安全に日常生活を送ることが可能になります。

白内障が寿命やQOLに与える影響

視力低下による生活の質の変化

白内障は直接的に犬の寿命を縮める病気ではありませんが、視力の低下がもたらす生活の質(QOL:Quality of Life)への影響は決して小さくありません。視覚の情報が制限されることで、犬の行動や性格に変化が生じるケースもあります。

たとえば、活動量が減ったり、人との接触を避けるようになったり、散歩を嫌がるようになるなどの変化が見られることがあります。これは視力低下による不安や恐怖心が原因であり、放置すると抑うつのような状態になることもあります。

また、視力が失われたことで周囲とのコミュニケーションが取りにくくなり、孤立感を覚える犬もいます。そのため、白内障が進行した犬には、これまで以上に飼い主との信頼関係と愛情を感じられる関わり方が求められます。

生活の質を維持するために

視力が低下した犬でも、生活の質を高く保つための工夫はいくつもあります。たとえば、嗅覚や聴覚といった他の感覚を刺激する遊びを取り入れることで、犬の好奇心や意欲を引き出すことができます。

音の出るおもちゃを使った遊びや、においのするおやつを探す「ノーズワーク」などは、視覚に頼らない活動として非常に効果的です。また、飼い主の声がけやスキンシップも、犬に安心感を与え、情緒の安定を図るうえで大切な要素です。

さらに、日々の生活にリズムを持たせることで、犬自身が「次に何が起こるか」を予測しやすくなり、安心して行動できるようになります。食事や散歩、遊びの時間を一定に保つことが、精神的な安定にもつながります。

適切な治療法で寿命を延ばす

白内障そのものは命に関わる病気ではありませんが、糖尿病や緑内障といった関連疾患と併発した場合、体全体への影響は無視できません。そのため、白内障の治療や予防と並行して、こうした併発疾患の早期発見・早期治療が大切です。

また、白内障が進行する前に手術を受け、視力を回復させることができれば、活動的で充実した生活をより長く続けることができます。実際、視力を回復した犬は、再び元気に散歩を楽しんだり、遊んだりするようになる例が多数報告されています。

つまり、適切な時期に適切な治療を選択することで、結果的に寿命を延ばすだけでなく、人生(犬生)の質を向上させることができるのです。愛犬の健康寿命を支えるためにも、早期対応と継続的なケアが欠かせません。

まとめ:愛犬の目を守るために

犬の白内障は、高齢化や遺伝、糖尿病などさまざまな要因によって発症する目の病気です。進行すると視力が失われ、生活の質や行動に大きな影響を及ぼす可能性がありますが、早期に発見し、適切な対処をすることで、進行を遅らせたり、視力を回復させることも可能です。

本記事では、白内障の原因から症状の進行、治療法、予防策、そして視力を失った犬との暮らし方までを詳しく解説してきました。愛犬の目の健康を守るためには、日頃からの観察とケアが何よりも重要です。

年齢に応じた定期検診や、環境を整える配慮、そして飼い主自身が知識を持って冷静に対応する姿勢が、犬にとっての最大の安心となります。白内障は避けられないケースもありますが、正しい知識と対策をもってすれば、愛犬と豊かで幸せな時間を長く共有することができるでしょう。


よくある質問(FAQ)

Q1. 犬の白内障は自然に治ることがありますか?

いいえ、自然に治ることはありません。白内障は進行性の病気であり、放置すれば視力を徐々に失っていきます。進行を止める点眼薬はあっても、完治を目指すには手術が必要です。

Q2. 白内障の手術は何歳まで可能ですか?

年齢だけで手術の可否を決めることはありませんが、高齢になるほど麻酔リスクが上がります。体調や持病の有無によっては手術を見送ることもあるため、主治医と慎重に相談しましょう。

Q3. 犬の白内障はどれくらいの期間で進行しますか?

個体差がありますが、遺伝性や糖尿病性の場合は数日〜数週間で急激に進行することもあります。加齢によるものは数ヶ月〜数年かけて徐々に進行する傾向があります。

Q4. どの犬種でも白内障になりますか?

どの犬種でも発症する可能性はありますが、特にプードル、コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザーなどは遺伝的に発症リスクが高いとされています。犬種によってリスクが異なるため、飼い主は犬種の特性を理解しておくことが大切です。

Q5. 視力を失ってしまった場合、犬は幸せに暮らせますか?

はい、視力を失っても、適切な環境と飼い主のサポートがあれば、犬は十分に幸せに暮らすことができます。嗅覚や聴覚を活かし、工夫を凝らした生活を送ることで、QOLを高く保つことが可能です。

編集者情報

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