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INTERVIEW

インタビュー

一般社団法人日本ペットBLS防災学会
山本 大樹

愛犬を守る力は、あなたの手の中に――ペット防災と救命教育の最前線

愛犬を守る力は、あなたの手の中に――ペット防災と救命教育の最前線

日本ペットBLS防災学会 代表愛犬と安心して暮らせる環境を整えるうえで、防災と救命に関する正しい知識は欠かせません。今回は、一般社団法人 日本ペットBLS防災学会の代表理事・山本大樹さんにお話を伺いました。学会設立の背景、ペットのための心肺蘇生講座(BLS)の内容、そして災害時に備えるための具体的な取り組みまで、ペット防災の現状と課題、飼い主が日常からできる備えなど、実践的な情報が詰まった内容です。ペットと暮らすすべての方にとって、防災を「自分ごと」として考えるきっかけとなるインタビューとなっています。

目次

災害時、本当に必要とされる「ペット防災」とは?

――まずは、日本ペットBLS防災学会設立の背景を教えてください。

私は元々、消防士でした。東日本大震災の被災経験をきっかけに「災害が起きる前に何ができるか」を真剣に考えるようになり、防災の道へ転身しました。内閣府や環境省で防災担当を務めるかたわら、大学で防災の講師もしました。そこで多くの方々のお話を聞いていくなかで、災害時に最も困ることとして浮かび上がったのが、「災害時のトイレ」と「ペット」でした。 「誰が教えるのか?」「どこで学べるのか?」と探しても、きちんとした教育機関が存在しなかった。間違った情報すら広まっていたりする現状を見て、それなら自分たちで作ろうと、日本ペットBLS防災学会を立ち上げました。

命を守る「BLS」――心肺蘇生の正しい知識を伝える

――もともと動物もお好きだったんですか?

青森出身で、家には犬も馬もいましたし、牛もニワトリも猫も。 ずっと動物に囲まれて生きてきたんです。動物の周りで育ってきたことと、 防災に携わっていて、救命士の資格があることから、自分にできることを考えてこの活動になりました。

ーー学会の名前にもなってるBLSにはどのような意味がありますか?

BLSは「Basic Life Support(一次救命処置)」の略で、一般の方には聞きなれないかもしれないのですが、人間の救命教育では一般的です。きちんと学問に沿った内容を教えたいと思って、あえて名前に入れて、正しい心肺蘇生法の普及に取り組んでいます。

避難できない現実――だから「在宅避難」をすすめる

――災害時、ペットはどのようなリスクに直面するのでしょうか?

東日本大震災では、津波の影響で多くの命が奪われました。ペットと一緒に避難できたとしても、避難所では「共生」が課題になります。

ーーペット同行避難という言葉を聞いたことがあるのですが、避難所には動物が苦手な人もいますし、ストレスの多い環境下ではトラブルも起こりますよね。

避難するだけなら可能ですが、その後一緒に生活できるかは全く別の話です。ペットの受け入れが可能な避難所は、満足に整備されているわけではありません。そのため、私たちは「在宅避難」を推進しています。ペットを飼う部屋だけでも耐震補強をし、家具の固定、避難動線の確保などを進めて、避難所にいかなくても良いように、家にいながら安全を確保できる環境づくりを呼びかけています。

年間5,000人が学ぶ、実践型BLS講座

―― 日本ペットBLS防災学会の講座では、どんなことが学べるのでしょうか?

災害はいつ、どこで起こるか分かりません。そんな予測不能な状況の中で、日本ペットBLS防災学会では、緊急度の高いものを教えていこう、そして緊急度の高いもの=命に関わること、すなわち心肺蘇生(BLS)と考えて、BLSに特化したオンライン講座を実施しています。 講座は主にeラーニング形式で、年間5,000人を超える受講者が全国から参加しています。受講の流れはシンプルですが非常に実践的です。まずはYouTubeで60分間の講義動画を視聴し、心肺蘇生の理論と方法を理解していただく。次に自宅に届く練習キット(小型犬から大型犬まで全ての犬種に対応したトレーニング器材)を用いて、自主トレーニングを行います。最終ステップでは、自身の蘇生トレーニングの様子を2分間動画で撮影し、LINEで提出してもらいます。その映像をもとに学会が合否判定を行い、認定証が発行されるという流れです。この試験がポイントで、きちんと実技手技を確認をして認定を出します。

ーー 実技で落ちる方もいらっしゃいますか?

確かに 合格点に達しない方もいるのですが、その場合はその場で矯正指導します。 ここをもう少しこうやってください、そしたらもう1回 LINEを送ってください、と。合格するまで見届けて全員合格にしてます。

ーー追試や補修に追加料金はかかりますか?

いえ、追加料金は一切いただきません。0円サポートです(笑)私たちの目的は、正しい実技を覚えてもらうこと。「命を守れる人を一人でも増やす」ことが目標です。ほとんどの方は一発で合格されますが、それでも不安な方のために、しっかりフォローアップしています。

【犬猫専用】心肺蘇生法(You Tube)はこちら

動画だけじゃない、対面の需要にも対応

――対面での講座もありますか?

はい。基本はオンラインですが、最近はドッグトレーナーさんやペットシッターさん、ペットホテルのスタッフの方々など、動物に関わるプロの皆さんから「団体で対面講習を受けたい」というご依頼を多くいただいています。そういったケースでは、私が実際に現地にうかがって、90分の集中講習を行っています。90分の中で、講義、実技指導、そしてその場で試験まで行います。ただし、90分での達成度は30%であることを最初にお伝えします。30%を100%にするには、練習キットを持って帰っていかに家で勉強するか。「講座を受けて終わり」にはしません。日々のこの練習の積み重ねが万が一の時に生きるんです。

心臓マッサージは力と技術の勝負

―― 受講生は全員同じワンちゃん(練習キット)ですか?

はい、ワンちゃんはトイプードルですね。あと、猫ちゃん希望の方は猫ちゃんを選べるようにしています。

ーーワンちゃんと猫ちゃんでは救命処置に違いはありますか? はい。小型犬は片手で優しく圧迫しなければ、肋骨を折ってしまう危険があります。猫と小型犬は基本的には同様の手技ですが、5キロ以上の中・大型犬は心臓の位置も異なり、四角いキットを使って異なる方法で行います。教材のぬいぐるみには、リアルな心臓の反発を再現するウレタン素材を使用しています。

ーー確かに一般的なぬいぐるみより全然硬いですね。自動車の教習所で習う人間の模型よりも硬いです!!

確かにバスタオルなどで学ぶ学校もあるんです。 だけど、タオルだと反発がありません。この反発を感じることも大事なんです。練習するだけでも相当な体力を要しますし、心肺蘇生は簡単なものではありません。この練習キットは「命を守ることの重さ」を感じてもらうためにこだわって開発しました。

防災は「人」が先。だから「ペット」にも活かせる

――家庭での備えで、特に重要なポイントは何でしょう?

まずは飼い主自身が自分の防災を見直すことです。備蓄、トイレ、水、食べ物、懐中電灯の電池など、自分に必要なものを把握することで、ペットに必要なものも自然と見えてきます。近年ペット防災の関心が高まっていると感じますが、自分の対策をしていない人ほど、ペットの防災はどうしたらいいんですか?って聞いてきたりします(笑)まず自分の防災対策を考えてみてください。自分に必要なものはペットに置き換えても必要です。 あとは避難動線の確保や家具の配置も重要です。日頃から「クレート訓練」など、落ち着いて避難できるような訓練も必要になります。

命と向き合う覚悟が、自分を変えていく

――印象に残っているエピソードはありますか?

動物看護学生たちの講習が印象深いです。本当に真摯に取り組んでくださって、講習を受けて救命には体力が必要だと実感し、筋トレやランニングを始めたという報告をいただいたんです。「助けたい」という強い気持ちが、日常の生活を変えるほどの原動力になるんですね。

ーー知識だけでなく、体力面でも備えておくことが必要なんですね。

はい。反復練習もそうですが、日々の積み重ねが大切です。

2分間のゴールデンタイム、あなたが守れる命

――最後に、ドッグスペシャリストナビ読者の皆さまへメッセージをお願いします。

心肺停止になってからの最初の2分間は、救命率を左右するゴールデンタイムと言われています。どんなに優秀な獣医が近くにいても、高度な設備が整った病院があったとしても、心肺停止から2分間は「飼い主だけがそばにいる時間」です。このゴールデンタイムに、何ができるか。それは飼い主である「あなた」が、救える命があるということです。ぜひ、その可能性を信じて、備えてください。

編集後記

災害はいつ起きてもおかしくありません。ペットを愛するすべての方にとって、その時、「何を持って逃げるか」よりも先に、「自分に何ができるか」が問われます。山本代表の言葉からは、単なる知識を超えた“命に向き合う覚悟”が伝わってきました。ただ怖がることではなく、正しい知識と体力を備えて、あなたの愛犬の命を、ぜひあなた自身の手で守ってください。

編集者情報

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