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INTERVIEW

インタビュー

一般社団法人 人とペットの幸せ創造協会 会長
越村義雄

グローバル時代のペット産業——越村義雄氏が語る共生と成長のビジョン

日本のペット業界を牽引し続けてきた第一人者・越村義雄さん。ヒルズ・コルゲート社で療法食という新市場を切り拓き、現在は「人とペットの幸せ協会」や国際的なペット産業団体を率いるなど、その活躍は多岐にわたります。 ペットと人との関係が、健康・福祉・教育、そして地域社会へと広がりを見せるいま。今回のインタビューでは、越村さんの歩みとともに、 “人とペットの共生社会”への道をどう切り開いていくのかを伺いました 。

目次

海外コンサルタントからペット業界へ

― 越村さんはたくさんのご経歴をお持ちですよね。もともとは通信業界にいらっしゃったと伺いました。

越村氏:はい。30歳まではNTTの海外コンサルティング部門で働いていました。ヨルダンやバングラディシュなどの発展途上国で、発展途上国の電電公社との契約交渉や技術支援を担当していました。国際交渉の現場で学んだ「信頼と対話」の重要性は、今の仕事にもつながっています。

― そこからペット業界へと転身されたきっかけはなんですか?

越村氏:ちょうどその頃息子が生まれたのですが、会社からはナイジェリアに2年駐在してほしいという話があり、その時ふと「家族とどう生きるか」を考えたんです。ちょうど欧米の企業文化にも興味を持っていたので、思い切ってアメリカのヒルズ・コルゲートに転職しました。

― ヒルズ・コルゲートはペット療法食の最初のメーカーですよね?

越村氏:はい。当時は、まだ「療法食」という概念自体が日本にはなく、病気の犬や猫のための“食事療法”は、まだ誰も知らない分野でした。1978年、初年度の売上は1億円ほどでしたが、2009年の社長最終年度は269億円に。営業利益も90億円を超え、2006〜2009年には末端の金額シェアで業界トップシェアを達成しました。社員一人ひとりが「動物の健康を守る」という使命を持って働き、米国の獣医師がNo.1に推奨というメッセージが強みでしたね。そこから2015年まで会長や名誉会長を務め、2015年にリタイアして、今は3つほど会社を作って携わっています。あとは、一般社団法人 ペットフード協会の名誉会長や一般社団法人 人とペットの幸せ創造協会の会長、一般社団法人日中ペット産業振興会会長等をしています。ヒルズ社長時代には獣医師の先生方と日本ペット栄養学会や内科学会を立ち上げました。

― まさに日本のペット産業を切り拓いた第一人者でいらっしゃるんですね。

教育の現場で伝えたい「発言する力」

― 現在は大学で講師としても教壇に立たれているとか。学生さんに伝える時に大切にしていることはなんですか?

越村氏:ヤマザキ学園の非常勤講師として「ペット関連産業論」を担当しています。授業では、ペット業界だけを学ぶのではなく、世界経済や環境の動き、社会構造の変化をマクロで見るように伝えています。

― 広い視野を持つことが越村さんが考える、業界の発展にもつながるということでしょうか?

越村氏:そうです。例えばコロナのような感染症もそうですが、100年ほど前に流行したスペイン風邪では約4,000万人が亡くなりました。コロナでも世界で1,000万人ほどの犠牲者が出ています。地球の歴史は46億年、ウイルスの歴史は30億年、人類の歴史はわずか20万年ほど。近年は温暖化によって氷が溶け、古代のウイルスが再び出てくる可能性もあります。このように、感染症の流行は100年単位ではなく、もっと短い周期で起こるようになるでしょう。そうなると、ペット業界を含むすべての産業がその影響を受けます。だからこそ学生たちには、「業界の中」だけで物事を見るのではなく、世界全体の動きや社会構造、地球環境を踏まえて考える力を養ってほしいと伝えています。

そしてもう一つ大切なのが、「発言する力」です。社会に出ると、正しいことを言えるかどうかよりも、まず“発言できるか”が問われます。特に外資では、会議で発言しない人は「次から出なくていい」と言われてしまう世界。ですから、授業でも「発言したら点数を上げる」と伝えています。

― 実際に学生さんの反応はいかがですか?

越村氏:皆、最初は恥ずかしそうにしていますが、次第に積極的に意見を交わすようになります。自分の言葉で考えを発信するようになると、学生の表情も変わっていくんですよ。将来ペット業界で働く上でも、この“自ら発言し、行動する力”はとても大切だと思っています。

― 実際に学生さんの中で印象に残っているエピソードを教えてください。

越村氏:就職の面接前に「こういう質問をしてみたら?」とアドバイスした学生がいたのですが、実際にその質問をしたら「なかなか鋭いね」と言われ、その学生は見事に採用されたんですよ。もちろん本人の努力や能力によるものですが、自分の言葉で発信できる若者は、必ずチャンスを掴みます。

ペット業界の今──縮小する市場と教育の空白

― ペット業界に携わって長い越村さんですが、この数十年でどんな変化を感じていますか?

越村氏:今は本当に厳しい時代に入ったと感じています。日本の人口は昨年だけで約90万人減少しました。本来なら2040年代に訪れると予測されていた水準です。年間のしぼう者数は150~160万人にのぼり、65歳以上の高齢化率も29.4%。この社会の変化が、ペット業界にも大きく影響しています。2008年に1310万頭だった犬の飼育数は、現在680万頭前後にまで減少しました。猫の下落率は低いですが、今後同様の傾向がみられると思います。かつては日本がアジアでもトップクラスの飼育率を誇っていましたが、いまやほとんどのアジア諸国にも追い越されつつあります。

さらに、教育現場にも変化がありました。昔は小学校に、犬、猫、ウサギや金魚などの飼育動物がいて、子どもたちは“命と触れ合う”体験をしていましたが、今ではほとんどの学校でその文化が失われています。動物を教えられる先生が減り、「命を育てる教育」が途絶えつつあります。ドイツでは1841年から全国の小学校で「人とペットの共生」の授業が行われています。日本ではそのような体系的な教育が整備されておらず、この差がペット文化の成熟度に表れています。業界として、この状況を放置するのは大きな損失だと感じています。

ペット業界の構造的危機と“60歳の壁”を越える共生社会へ

― ペット業界が直面している課題について教えてください。

越村氏:一番の問題は、業界が“夢を与えられなくなっていること”です。スポーツ界には野球の大谷選手やサッカーの久保選手のように子どもたちが憧れるスターがいますが、ペット業界にはそうした存在が少ない。私たちは「ペットに関わる仕事って素敵だ」と思ってもらう努力を十分にしてきたでしょうか。日本には世界で優勝するような技術のあるグルーマーの方も結構いらっしゃいますので、もっと知っていただく必要があるとも思っています。業界が夢を語れなくなったとき、その文化は衰退します。もっと夢を見られるように活動する必要があります。

もう一つの課題は、ペットの高齢化です。いまや犬も猫も7歳以上が全体の半数を超え、1歳未満はわずか4%ほどしかいません。本来なら8〜10%はいないと健康な年齢ピラミッドが保てません。このままでは、今後7〜8年で高齢ペットが一斉に亡くなり、市場が急激に縮小する恐れがあります。

― 産業全体に大きな影響が及びそうですね。

越村氏:はい。獣医師の先生方はいま高齢ペットの診療で忙しくされていますが、次に来る“ペット人口減少期”への備えはできていません。私が講演でこのデータを示すと、多くの先生が初めて危機感を持ちます。ペット業界はこのままでは確実に縮小していく。だからこそ、今こそ構造を見直す必要があります。人口減少と高齢化が進む中で、業界を支えるためには、教育や共生の仕組みを通じて「若い世代が憧れる産業」に変えていくことが不可欠です。同時に、動物と暮らす喜びを社会全体で再認識し、命と向き合う価値をもう一度取り戻すことが大切だと思います。

― 特に日本は、人間も超高齢化社会になっていますよね。

越村氏:はい、日本では、保護犬や保護猫の譲渡に年齢制限を設けている団体が多く、60歳を超えると「譲渡不可」とされるケースも少なくありません。しかし、私はこの“60歳の壁”をなくすべきだと思っています。社会全体の変化の中で、高齢者とペットの関係も見直す必要があります。欧米では、年齢で差別するという考え方そのものが存在しません。むしろ「高齢者こそペットと暮らすべき」という文化があります。なぜなら、ペットと暮らすことで血圧が安定し、笑顔が増え、認知症リスクも約4割減少するというデータがあるからです。ペットとのふれあいは、人間の健康にも確かな効果をもたらします。いまの60歳はまだまだ若く、平均余命も20年以上あります。それにもかかわらず、年齢で線を引くのはもったいないことです。本来は、年齢ではなく“支え合う仕組み”をどう作るかに目を向けるべきだと思います。

― “支え合う仕組み”の具体的な構想はありますか?

越村氏:「高齢ペットシッター協会」という構想を進めています。高齢者がシッターさんのサポートを得て動物を飼いたいと思った時、現状ではシッターさんの数自体がまだまだ足りていません。この協会の目的は、高齢者が安心して暮らせる社会をつくること。いわば“老老介護”ならぬ“老老ペットケア”の仕組みです。日本では高齢者人口が増え続けていますが、同時に高齢者の方々が最も多くの資産を保有しています。その力を社会の中でどう生かすか、そして「老老介護」をどう解決していくかが、今後の日本にとっての大きな課題です。人のケアワーカーとペットのケアワーカー、両方の役割を担える企業や人材は、まだ存在していません。だからこそ、そこに新しい可能性があると思うんです。私は学生にも「誰もやったことのないことをやりなさい」とよく話します。未開拓の分野にこそビジネスチャンスはあります。中には「自分も挑戦してみたい」と言ってくれる学生もいます。そういう若者が一人でも多く育ち、この業界を新しい形で発展させてくれたらと願っています。

ペットパスポートプロジェクト──共生の社会を形に

― 現在、越村さんが進めている新しい取り組みについて教えてください。

越村氏:はい。「ペットパスポートプロジェクト」です。この構想は、犬が一定のマナーを身につけた“社会の一員”として認められる仕組みをつくるものです。犬の行動試験と飼い主の資格試験を行い、「伏せて静かに待てる」「吠えない」「噛まない」などの基準をクリアすれば、ペットと飼い主にペットパスポートを発行します。お店やレストランの入り口には「パスポート犬OK」のピクトグラムを掲示し、安心して入店できるようにします。2025年1月から中野区と港区で実証実験を始める予定で、複数のメーカーや動物病院も協力してくださっています。欧米では犬と一緒に入れるお店や航空機が多いですが、日本ではまだ制限が多く、共生文化が根づいていません。このプロジェクトは、単に「犬が入れる場所を増やす」ことではなく、飼い主と犬がマナーを学び、社会の中で共に生きるための教育活動でもあります。ペットと暮らしていない人とも自然に触れ合える機会を生み出すことで、理解と共感の輪を広げたいと考えています。橋幸夫さんの歌の「いつでも夢を」という言葉のように、このプロジェクトを通じて人も動物も笑顔になれる未来をつくりたいと思っています。

ワンヘルスの視点──人・動物・環境はつながっている

― 越村さんが未来に引き継ぎたいと思うお考えはありますか?

越村氏:今は「ワンヘルス」というのを世界医師会と世界獣医師会が推奨してるのですが、人の健康、動物の健康、環境の健康はすべてが密接につながっているという考え方です。たとえば、マイクロプラスチックが海を汚し、それを魚が食べ、その魚を人間が食べる。環境の破壊は、最終的に人の健康に返ってきます。つまり、環境を守ることは、人と動物を守ることでもあるんです。この視点から見れば、「人とペットの共生」は個人の問題ではなく、社会全体のテーマです。地方自治体や教育現場を巻き込み、子どもの頃から命と環境を大切にする意識を育てていくことが大切だと思います。共生社会を築くというのは、動物愛護にとどまらず、人類全体の未来を守る行動でもあるのです。また、ペットと暮らすこと自体が、人の健康を支える要素でもあります。赤ちゃんの頃からペットと過ごすと感染症やアレルギー疾患にかかりにくくなるという研究もありますし、動物と触れ合うことで分泌される“オキシトシン”は、心を穏やかにしストレスを減らします。ペットとの暮らしは笑顔を生み、それが社会全体の健康にも波及していく。日本の医療費の削減効果も年間4兆円規模にのぼるという試算もあるほどです。私はいつも「ペットは社会のインフラ」だと伝えています。ペットと共に生きることは、環境保全・健康・教育・福祉のすべてに関わる。ワンヘルスの理念は、人と動物、そして社会の幸せを一体で考えるための鍵になると思います。

最後に読者の皆様へ

― 最後に、ドッグスペシャリストナビの読者にメッセージをお願いします。

越村氏:専門家の方々はそれぞれの分野でペットのことに関して、知識も豊富な方々なので、ペットと暮らしていない方にも、ペットの素晴らしさを伝えてほしいです。ペットは家族であり、人生を豊かにしてくれる存在です。 そして何より、人も企業も“好奇心”を持ち続けることが大事です。好奇心を失えば成長も止まる。去年より一歩でも成長しているか──その意識を持ってほしいですね。 私はこれからも、ペット業界が“夢を与える業界”であり続けるために挑戦を続けます。

越村 義雄氏 プロフィール

肩書: 一般社団法人 ペットフード協会 名誉会長/一般社団法人 人とペットの幸せ創造協会 会長/国際ビジネスコンサルティング株式会社 代表取締役社長/一般社団法人 日本ペット栄養学会 監事/一般社団法人 ペットとの共生推進協議会 シンポジウム実行委員長 ほか

出身地:新潟県

主な経歴概要:
NTT系列の電気通信分野で海外コンサルティング会社に所属し、海外営業部門に従事。
1978年6月、日本コルゲート・パルモリーブ株式会社(現・日本ヒルズ・コルゲート株式会社)に入社し、犬・猫用ペットフード事業の立ち上げを担当。
同社において、31年間で売上を初年度1億円から約269億円へと成長させる。業界におけるマーケットシェアを数年でトップに導いた実績を持つ。
2009年5月、ペットフード関連団体(ペットフード協会・ペットフード公正取引協議会)両会長に就任。業界の流通・安全基準・資格制度の整備に寄与。
2015年7月、一般社団法人 人とペットの幸せ創造協会および国際ビジネスコンサルティング株式会社を立ち上げ、代表として新たなステージを推進。

受賞・社会貢献:
「扶養ペット慶弔規定」を社内で世界に先駆け制定。
2006年6月19日、公益財団法人 日本動物愛護協会より「動物の愛護及び管理に関する法律の趣旨に沿うものとして」感謝状を受領。
2010年6月、公益社団法人 日本動物病院協会(旧 日本動物愛護病院福祉協会)より福祉功労賞(Bustad Award)を受賞。

キーコンセプト・専門分野:
・ペットフード産業の成長と健全化(マーケット創出、流通・安全基準整備)
・人とペットの共生社会モデルの構築(教育、社会福祉、高齢者支援)
・グローバル視点によるペット産業の展開(アジア・中国との連携)

メッセージ:
「ペットと人、人と社会がともに笑顔になれる未来をつくること。それが私の使命です。」(ご本人コメントより)

 

編集後記

越村義雄さんの言葉には、常に“未来を見据える視点”があります。人口減少や高齢化など、厳しい現実を直視しながらも、「それでも夢を持ち続けよう」と語る姿に、多くの希望を感じました。越村さんのように理想を語り、行動し続ける人がいる限り、日本のペット文化は進化し続け、世界をリードする存在になるはずと信じています。

編集者情報

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