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INTERVIEW

インタビュー

一般社団法人ドッグデンタルマイスター協会 代表理事
山田 亜矢

犬の口腔ケアをもっと身近に!愛犬の健康を守る歯磨きの大切さ

 

愛犬の健康を守るために欠かせない“歯磨き”。しかし、意外と知られていないのが、正しい犬の口腔ケアの方法です。今回は、一般社団法人ドッグデンタルマイスター協会の代表理事である山田様に、協会設立の経緯や犬の歯磨きの重要性についてお話を伺いました。

目次

犬の歯磨き啓蒙活動を始めたきっかけ

―この協会を設立された経緯や目的などを教えていただけますか。

協会を立ち上げた背景には、犬の正しい歯磨きについて知っている人がほとんどいないという現状がありました。コロナ禍をきっかけに犬を新しくお迎えする人が増え生活様式も変化しましたし、家族同然の距離感で接することが当たり前になってきました。また、犬にコストをかける飼い主様が増えている現在、健康を価値とする予防意識として犬の口腔ケアについて正しく伝えることが必要だと考えました。

私自身、人間の歯科衛生士として専門学校の教員をしていた経緯から、現在は人と犬の歯科セミナー講師をしていますが、実は恥ずかしながら、ちょっと前まで自分の犬の口腔ケアすら考えたことがなかったんです(笑)。優れたケアグッズも多くなく、犬の歯ブラシの数すら少なくて、犬の歯を磨くということ自体がポピュラーでなかった。

一度気付いてしまったら「どうして動物界はこんなに歯科が遅れているんだろう」、「どうすれば正しいケアを広められるのか?」と悩みました。また、飼い主様自身も犬の口腔ケアの必要性を理解していないことが大問題だと思いました。痛みや違和感を感じるのは犬であって、飼い主様ではないため、必要性を感じにくいのかもしれません。そのため、飼い主様への教育が非常に重要だと考えています。

私が犬の歯みがきを仕事にしようとhamigaki.dogという団体を立ち上げたのは5年前になります。今では2000頭を超える犬の飼い主様への指導を行っています。

人間界で歯科衛生士として働く人たちは国家資格を持っていますが、登録者45万人中、歯科衛生士として働いている人は15万しかいないという状況でした。そこで、国家資格を持ちながら歯科衛生士として稼働してしていない人材をどのように活用するかということを考えました。私自身、犬と一緒に過ごす時間が増えたこともあり、ふと犬の歯磨きの啓蒙のためにそれらの人材が使えるのではと思いつきました。 まずは人材育成として多くの仲間に犬の歯磨きを教える必要があります。当時はデンタルケアと言えば犬の歯石除去というグレーゾーンの施術が横行していました。本来デンタルケアはホームケアとして自宅で毎日行うもの、それ以外は歯科医院でのプロケアを受けるものというのが人間界の常識です。犬の歯石は獣医師のみが医療行為として除去するものなのです。

それよりなにより、歯石ができるだけ付着しないような正しい歯みがきが前提として必要であり、その過程で飼い主様が正しい物事を選択できるように、 正しい知識を根付かせよう、全国に犬の歯磨きを広める仲間を育てようという思いをきっかけに2023年に教育機関としての一般社団法人ドッグデンタルマイスター協会を立ち上げました。

人間の歯科衛生士としての経験を犬の口腔ケアに活かす

―今まで人間の歯科衛生士さんで犬に対して歯みがきをお仕事とすることに抵抗を感じる方はいらっしゃいましたか?

現役の歯科衛生士がすんなり受け止めることは難しいですね。特に医療の最前線で働いてきた人ほど、「犬に歯磨きをするなんて」という抵抗感があります。私なんて今や、ミイラや恐竜の歯から、ワニやコアラ、馬や牛まで生き物の歯のスペシャリストでありたいと思うようになってしまいましたが(笑)。

一方、経験を重ねた歯科衛生士は身体の不調や結婚・出産・妊娠など環境の変化に伴う問題により、医療系の最前線で働くことに対するストレスを生じるようになります。実際そのような状況が歯科衛生士の離職率の高さにつながっています。 結局、人間側の事情による副産物ではありますが、自分の犬のために何かできないかという思いにつながってくるようです。これまでの人生経験は決して無駄ではなく、犬を大切に思う飼い主の気持ちに共感できるという利点があります。

犬の歯みがきが難しいのは継続のためのモチベーションがキープしにくい点になります。それはとても悲しいことで、飼い主様の気持ち次第で飼い犬に歯磨きをする習慣がそのご家庭からなくなってしまうわけです。歯磨きができない犬が悪いわけでは決してありません。

要するに犬ではなく飼い主様へのモチベーション向上となるサポート指導が必要になるということです。歯科医院で歯科衛生士が人間に対して歯科指導するのとまったく同じということです。大きく異なるのは歯を磨く対象が自分ではなく犬だという点です。この職業に就くにあたり、犬関連の資格を持っているかどうかというよりは犬の歯磨きをする人間にどのようにわかりやすく具体的な指導ができるのかということが重要なんです。

実際に、「歯磨きを嫌がるからうちの子には無理」と感じている飼い主様が多くいらっしゃいます。しかしそれは、正しい知識や方法を知らないために起こる「誤解」であり、犬ではなく人間側の学び直しによって解決できる問題だと考えています。 

犬の歯磨きを習慣化するコツ

歯磨きは毎日継続して行うことが大切です。私たちの協会では、まず道具の選び方、次に道具の使い方、最終的に道具を実際に使うという3つのステップで指導しています。

―歯磨きをされている犬の反応はどのような感じですか?

これまで2000頭以上の犬に歯磨きを行ってきましたが、成功率はいたって高い状態です。できなかった例としては 飼い主様が諦めてしまったということがありました。時間をかければ歯磨きはほとんどの犬に対して可能なことだと考えます。犬の歯磨きは嫌がられがちですが、工夫次第で嫌がらないようにすることができます。例えば、犬の反応をよく観察し、無理強いせず、飼い主様があきらめないことが大切です。特に人を見るような賢い犬たちは、嫌がるふりをして飼い主様を試すこともあります。それでも根気強く続けていくことで、歯磨きを受け入れてもらえるようになります。

―歯磨きに慣れるまでには個人差があると思いますが、期間はどのくらいかかるのでしょうか?

おかわりが1日や2日で定着しないのと同じように、飼い主様側が上手にできたという感覚を理解してお互いの成功体験の回数を増やしていく必要があります。例えば、犬の顎への手の添え方や犬や飼い主側の心理条件、場所、行う時間帯によっても変わりますし、 全ての条件がマッチした時に初めて成功したという感覚を重ねていく必要があります。お手やおかわりが安定してできるまでには数週間程度かかると思いますが、それと同様のペースで一つの動作が定着するまでにはある程度の時間が必要です。

また、飼い主様が「上手くできた」という成功体験を何度も積むことも大切です。歯磨きの時間帯、犬の機嫌、環境、飼い主様の感情など、すべてがうまく噛み合ったときに初めて「できた!」という感覚を得られるのです。

ですべてを理解できる人間と違って、何をされるんだろうという警戒心が強い犬には特に、歯みがきという行為自体のレベルを下げて欲しいです。簡単なことを一緒に行っていく毎日の積み重ねが、最終的に歯ブラシができる飼い主様と犬の組み合わせを作っていくのだろうと思っています。 

ドッグデンタルマイスター🄬になるには

―ドッグンタルマイスター🄬になりたい方はどうしたらいいですか?

ドッグデンタルマイスター協会では、一般の飼い主様向けから、プロフェッショナルを目指す方向けまで、さまざまな講座を用意しています。最初のステップとしておすすめなのが「愛犬歯磨き講座」です。こちらはZoomを活用したオンライン講座で、犬の歯磨きの基本をわかりやすく学べる内容になっています。

さらに、より専門的な知識と技術を学びたいという方には、「マイスター養成講座」へのステップアップをご案内しています。このコースでは全7回のカリキュラムを通じて、実際の指導現場で活かせるようなスキルを習得することができます。

講座の内容には、歯みがきのプロの歯科衛生士が行う指導の基本、歯みがきにおける犬への対応、性格に合わせたアプローチ、必要となるケア方法の実習なども含まれています。また、協会の理念として、正しい口腔ケアを広めていくための“啓蒙活動”にも参加していただける方を歓迎しています。

トリマーやペットシッター、動物看護師の方はもちろん、犬が大好きで学びたいという気持ちのある方なら歯科衛生士である必要はありません。どなたでもチャレンジ可能です。副業としての活用や、ご自身の愛犬のケアのためにという方も多くいらっしゃいます。

少しでも興味を持たれた方は、ぜひ協会のホームページをご覧いただき、講座への参加をご検討ください。 またマーブル&Co.さんでも活躍をしてる犬の歯みがき集団hamigaki.dogの仲間になって、実際にたくさんの犬と飼い主様に触れて、イベントなどで活動の幅を広げていただくのもいいと思います。 

シート磨きの有効性と実践方法

―実際にどのように歯磨きをするんですか?

多くの飼い主様が「歯磨きは歯ブラシでゴシゴシするもの」というイメージを持っていますが、実は歯磨きは口腔ケアの一部でしかありません。つまり、歯だけでなく粘膜や口内全体のケアが重要です。

そのため、私たちは「歯磨き」という表現を使いながらも、本質的には「口腔ケア」としてお話ししています。歯ブラシでいきなり犬の歯を磨くのは難易度が高いため、まずはシートを使った拭き取りから始めます。シートを使って粘膜のぬめりを取り除くことで口臭が軽減されることも多く驚かれます。

実は犬はうがいという行為ができません。 つまり、犬たちは口から菌を出すタイミングがなく、すべて飲み込むことになります。プレミアムフードや体に良いとされる飲み物を与えられて生活している犬たちがそれと同じタイミングで、全身疾患につながる大量の細菌も一緒にまとめて摂取していることになります。口の菌を外に出すタイミングが一日のうちに一回もないというわけです。歯磨きをすることにより多くの菌を集めてから外に出すことができるのです。口に住む細菌の数は人間ですらウンチよりも多いと言います。ハミガキをしない犬たちの口の中はウンチよりも汚いことになるので、「お尻を拭かないで歩いてるのと一緒です」と飼い主様には伝えています。食べるという時点で清潔な良いものを取り入れるイメージがありますが、そもそも口の中が汚れていたら意味がありません。体調が悪くなるサプリメントを摂取しているのと同じです。

実は、犬の口腔内に存在する浮遊細菌は、粘膜のぬめりに多く含まれています。うがいで金を外に出せない犬にとって、口内の汚れはそのまま体内に入りやすく、結果として内臓への影響も及ぼしかねません。

歯みがきを考えたら、まずはうがいをする習慣につながるシート磨きを取り入れてほしいと考えています。口の外に物を出すタイミングが、すなわち口腔ケアであるということを理解して、歯磨きの習慣をつけてほしいと思います。

その意味でも、「歯磨き=口腔ケア=健康管理」であり、健康寿命を延ばすための重要な習慣なのです。

歯磨きが生む、愛犬とのコミュニケーション

ー印象に残っているエピソードなどありますか。

はい、いくつかあります。中でも特に心に残っているのは、すでに亡くなったシニア犬との思い出です。

その子は疾患もあったので、年齢を重ねるごとに徐々に寝たきりになり、飼い主様も不安を感じていました。そんな中で口腔ケアに取り組むことになり、少しずつ続けていくことで、口臭が減り、食欲も安定し、結果的に16歳になるまでしっかりとご飯を食べていました。

最期までお口が清潔で、飼い主様から「ちゃんとケアしてきてよかった」と言っていただけたのが、とても印象に残っています。

犬が年を取っても、きちんとケアをすれば生活の質が大きく変わるということを、改めて教えてくれた大切な経験でした。

―今の話を伺っていますと、飼い犬のための行為であると同時に、飼い主様と犬との素敵なコミュニケーションだという印象を受けました。

歯磨きは、ただの健康管理ではなく、飼い主様と愛犬との大切なコミュニケーションの時間でもあります。犬が安心して口を任せるのは、信頼している飼い主様だからこそ。歯磨きを通じて、日々のスキンシップのひとつとして愛犬との絆を深めてほしいのです。

気づいたときだけ無理やりなケアをするのでは歯磨きが嫌いな犬にしてしまいます。目標はまずシートからレベルを上げずに、できたことを褒めて優しく声がけするたびに、犬は「この人は自分を大切にしてくれている」と感じるのです。そういった思いやりのあるケアが、犬の穏やかな表情や落ち着いた態度につながっていきます。 

協会の取り組みと今後の展望

展望としてはやはり、犬の歯磨きが当たり前の世の中になってほしいということです。ドッグデンタルマイスター協会では、Zoomでの講義を通して、飼い主様やトリマーの皆様に対して正しい歯磨きの方法を伝えています。さらに、トリマーやペット関連の仕事に携わっている方々にも、歯磨きを副業的に学んでいただき、収益を立てながら自分のお客様の大切な家族を守ることでより適切に確実に歯磨き人口を増やす仕組みも整えました。

それを補う形で実技を学べる歯磨きレッスンの提供をhamigaki.dogが行うことで知識、技術共に正しい歯みがきを身につけられるようサポートをしています。

今後は全国規模での啓発活動をさらに拡大し、犬の歯磨きが「当たり前」の世の中を目指していきます。「うちの子は歯磨きができないから」ではなく、「うちの子のために、今日もケアしよう」と思っていただけるように、協会としてこれからも努力していきたいと思っています。

最後に読者の皆様へ

犬の歯磨きというと、難しそう、大変そうと思われがちですが、正しい知識と少しのコツ、そこに飼い主様の根気があれば、必ず習慣化できます。そしてそれは、愛犬の健康を守るだけでなく、飼い主様との関係性もより深くするものです。

歯磨きは、愛犬への思いやりそのもの。ぜひ今日から、できることから始めてみてください。 

編集後記

犬の口腔ケアは、単なるお手入れではなく、大切な家族との絆を深めるコミュニケーションのひとつだと実感しました。山田さんのお話からは、専門的な視点と優しさが感じられ、日々のケアの大切さに改めて気づかされます。この記事が、少しでも多くの愛犬家の皆様にとって、歯磨きを「特別な習慣」から「当たり前の習慣」へと変えるきっかけになれば幸いです。

編集者情報

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