日本ペット救命活動協会の代表理事・小林さんにお話を伺い、飼い主として知っておきたい「救命」や「防災」の知識について深掘りしました。身近で起きた実体験をきっかけに、海外で学び、全国で講座を展開する小林さんの活動には、すべての愛犬家が学ぶべきヒントが詰まっています。
ペットの緊急時、私たちは本当に適切な行動ができるのでしょうか? わんちゃんの命を守るために、今できることとは?その答えを、ぜひ記事の中で見つけてください。
目次
わんちゃんと共に育った日常が、命を救う使命に変わるまで
――まずは、小林さんとわんちゃんとの関わりについて教えてください。
物心ついたころから、わんちゃんは常に身近にいる存在でした。家族として生活を共にしてきた中で、獣医師の先生とのお付き合いや、保護犬の活動など、自然と命に向き合う機会が多かったと思います。
――救命の分野に進んだきっかけは何だったのでしょうか?
決定的だったのは、あるドッグランで起こった出来事です。大型犬がボールを喉に詰まらせて亡くなってしまう瞬間に立ち会ってしまったんです。小型犬にとって大きめのボールであっても、大型犬にとってはちょうど喉につまる大きさなんです。ドッグランなど種々の犬種が一緒に遊ぶ場で、その子はよその子のボールに飛びついて飲み込んでしまったんですね。でも喉に詰まって苦しんでいても、自分を含め何人もの飼い主さん達が見守る中で、その子はあっという間に亡くなったんです。「正しい知識がないから助けてあげられなかった」その場にいる全員が同じ思いをしました。とてもショックでした。同じような悲劇を繰り返さないために「知識やマナーを広めること」が必要だと痛感しました。
海外で学んだ「備え」の大切さ―コミュニケーション
――その後、海外で救命に関する勉強をされたんですよね?
はい。ペット先進国では、ペットの命や、ペットが幸せに生きる権利に関する意識も制度も進んでいるという事を知り、学びに行きました。先進国の動物に対する法律や福祉、飼い主さん達のペットに関する知識の違いを強く感じました。「備えが大切」という考え方に痛感しました。「備え」とは、飼い主さんが獣医さんやトレーナーさん、ブリーダーさんとの関係が強く、何かあった時の「対処法」や「予防策」を知っている、という事です。また、相談できる色々な方(窓口)が多いという事です。私も社会でのそんな窓口の一つになりたいと思いました。
――ドッグスペシャリストナビの読者の方々に向けて、すぐにでもできる予防策はありますか?
まず大切なのは「かかりつけの獣医さん」を持つことです。すぐに相談できる獣医さんがいるだけで判断が大きく変わりますし、日常的なしつけや体調管理にもアドバイスをいただけます。その上で、飼い主さん自身が基礎的な知識を学んでおくことが重要です。うちの協会には獣医さん、ヒトのお医者さん、獣医学博士、動物行動学の先生、防災の先生、訓練士の先生など沢山の先生がいらっしゃいます。是非色々な講座を受講いただき、ペットの病気や怪我、トラブル、事故の防止など「予防」に役立てて頂きたいです。
日本ペット救命活動協会の目指す未来
――協会ではどのような活動をされているのでしょうか?
ペットに関する各種講習会の実施です。最終的な目標として、保護施設の設立を考えていますので、その資金づくりと、出来てからの運営のために「ペット救急救命講座」「ペット防災講座」「ペット介護講座」などを開いています。他にもドッグトレーニングやドッグスポーツのイベントなどを都内、神奈川県、埼玉県を中心に行っています。
――講座の受講者の反応はいかがでしょうか?
実際にご自宅でわんちゃんが倒れた際、救命措置を行いながら動物病院に向かい、命を繋ぐことができたという方もいらっしゃいます。受講前と後では皆さんの表情が本当に違うんですよ。「わんちゃんの命と真剣に向き合う」という意識の変化が、私たちの活動の最大の成果だと感じますし、喜びでもあります。
――今後、どのような活動を目指しますか?
今の動物行動学は速い速度で進歩しています。昨年勉強した考え方が、今年変わっているという事も少なくありません。常に新しい動物の考え方や行動学を取り入れながら「救命」や「防災」、「介護」「トレーニング」などの講座メニューを随時最新版に更新し、一人でも多くの方にお伝えしたいと考えております。
飼い主さんが身に付けるべき知識とスキル
――救急時、飼い主さんができる初動対応にはどのようなものがありますか?
怪我や病気の種類によって異なりますが、大切なのは「慌てない事」と、「知識と行動力」です。うちの講習会は無料講習会が多いですから、何回か受けていただくうちに慣れてくるので、とっさの時に慌てないで済みます。そして講座で得た知識を基に、自信を持って獣医さんに命を繋いでいただきたいと思います。病院に着くまでに何ができるかで、結果が大きく変わります。また、誤飲時の吐き出させ方なども重要です。犬種や体格によって対応が異なりますので、ご自身のペットの体形に応じた基礎的な知識は必ず持っていてほしいです。
――「病院に行くべきか」の判断が難しいという声もあります。
そのためにこそ、かかりつけの獣医さんが必要なのです。何かあったときに早めに相談できる存在を作っておく。それだけで不安や判断ミスは大きく減ります。「ドッグスピード」という言葉があるのですが、犬の命の進行は人間の7倍。病気の進行も7倍と言われています。迷っているうちに手遅れにならないように、日ごろの「備え」が大切です。
ペット防災と“命を守る”共通点
――最近ではペット防災への関心も高まってきていますね。
そうですね。私自身、中越、東日本、熊本、房総、能登といくつもの被災地に何度も足を運んでおりますが、共通して思う事は、ペットを飼われていらっしゃる方々の逃げ遅れの被災率が高いという事です。災害時に飼い主さんが「生きて」避難できなければ、わんちゃんを「生かして」避難させることはできません。ペット防災の本質は「人間の防災意識を高めること」だと思っています。
――今後、実現したいビジョンなどありますか?
はい。私たちの「ペット防災講座」をはじめ各講座は「命の大切さ」がキーワードになっています。私たちはこの「命の大切さ」について沢山の人にお伝えしたいと考えています。人と動物は「同じ命」ということを、各講座を通じて伝えたいです。身近な動物達から命の大切さを学び、皆さんと一緒に考え、大人達から子供達へ命の大切さを伝える。私たちの活動がその一助になればと思っています。
飼い主さん達へのメッセージ
――最後に、ドッグスペシャリストナビをご覧の読者の皆さんへメッセージをお願いします。
私たち日本ペット救命活動協会は「人とペットの幸せな暮らし」を活動の軸にしています。「救命」「防災」「介護」「トレーニング」「スポーツ」など様々な講座があります。何度でも受けられる無料の講座、有料で認定証や資格者証が発行される講座など、ペットと楽しく、幸せに暮らすためのツールを沢山準備しております。是非、ホームページやInstagramをチェックして頂き講座にご参加ください。そして、わんちゃんが「この家族でよかった!」と思えるような環境を整えてあげてください。
小林さんへのインタビューを通じて強く感じたのは、「知識が命を救う」という真実です。災害時や緊急時、「何もできなかった」ではなく「少しでも何かできた」と言える自分であることが、愛犬家にとっての最大の備えではないでしょうか。わんちゃんの幸せは、飼い主の行動と意識によってつくられていく。そんな想いを、多くの方に届けられたらと願います。
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